加生:その時に議論していた小学校の利活用も、今年ようやく形になったと聞きました。
金子:はい。高橋さんと一緒に視察してから、地域の方々と一緒に構想を練ってきました。今年(2025年)2月10日に「一般社団法人いであい」を設立し、廃校活用プロジェクトを正式に始動。令和8年の4月に複合施設として開業予定です。
高橋:金子くんみたいな人がいないと、やっぱりこういうことは実現できない。地域の人だけでは限界がある。百年以上続いた学校が閉鎖されて、「暗くなる」話ばかりの中で、外から光を持って降りてきた金子くんの存在が、本当に大きかった。
加生:その金子くんのすごさの“要素分解”をしてみたいんですが、どんな特性がこの成功に結びついてると思いますか?
高橋:一つは人柄だよね。現地の人に好かれるし、でも必要なことはビシッと言える。もう一つは“通訳力”だと思う。都市と地方、両方の良さと課題を体感し、腹落ちしてるからこそ、両者を橋渡しできる。そういう「つなぐ人」がいないと、溝は埋まらない。
加生:まさに「通訳者=つなげる人」ですね。つなげる30人が目指す人材像としても、金子さんは理想形だと思います。嗅覚というか、翻訳する感覚が本当に優れてる。
金子:嬉しいです。僕たち自身、行政や地域住民との間に入って調整する“クッション材”だと思ってます。現場を歩いて感じること、実際に人と人の間に入ることで見えてくるものがたくさんあるんです。
高橋:その「クッション」という表現、いいね。日本は本来、“間”の文化があった国だと思うんですよ。AかBかじゃなくて、AもBも。その“間”を耕せる人材が、いま最も必要とされている。金子くんはまさにそういう存在だと思います。
都市と地方の分断をつなげる

加生:そんな“地方のスーパースター”金子さんが、なぜ渋谷を舞台にした「渋谷をつなげる30人」に参加することになったのか、改めてその背景や狙いについて聞かせてもらっていいですか?
金子:「渋谷をつなげる30人」のことは2018年くらいから知っていました。
その後、過去に参加された方のご紹介もあって、今回9期に参加することになりました。きっかけとしては、自分たちが秋田で取り組んでいる「まちづくり」を、都市の中でも広げたいという思いがありました。
地域ごとに発信の仕方が違うように、渋谷には渋谷なりの発信文脈がある。その中で、都市と地方をどうつなげるか──そこに可能性を感じたんです。
高橋:金子くんの話にもすごく共感する。俺も十年ほど東京にいたけど、かつては「東京が答え」だった。でも今は、そうじゃない一面も見えてきた。
都会も地方もそれぞれ生きづらさを抱えている。田舎には田舎の、都会には都会の孤独やリアリティの喪失がある。その“分断”を埋めるには、どちらか一方の力だけでは無理で、両方のベクトルが必要だと思う。
金子:はい。今、僕らのチームでは「シブツナ」というプロジェクトを進めています。渋谷の学生が地方に赴き、現地で体験したことを持ち帰って、渋谷から全国へ発信する。
農家さんや漁師さんの元で実体験を積んだ学生たちが、発信力を活かして地域の魅力を伝えるという仕組みです。御殿場などでのフィールドワークも予定しています。
加生:このプロジェクトの面白いところって、金子さんが単独でやってるわけじゃなくて、放送作家、ライター、学生、渋谷区役所の方など多種多様なメンバーとチームを組んでる事なんです。


