米国で景気後退の懸念が広がる中、米商務省が4月30日に発表した1〜3月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)の速報値は年率換算で前期比0.3%減だった。
2024年10〜12月の2.4%増から大幅に押し下げられ、ダウ・ジョーンズのデータによると、0.4%増とされていたエコノミストのコンセンサス予想を下回った。
経済活動の基礎的指標を示す各種データは、実際にはさらに深刻である可能性を示唆している。米国の実質GDP成長率のリアルタイム推計値であるアトランタ連銀のGDPNowでは、金の輸出入を除いた1〜3月期のGDPは前期比0.4%減と示されている。一方、ゴールドマン・サックスは同0.2%減としている。
今回発表された1〜3月期の0.3%減は2022年1〜3月期以来のマイナス成長となる。
米国のマイナス成長は過去10年で3回しかない。新型コロナのパンデミックによって世界経済が停滞した2020年の1〜3月期と4〜6月期(28%減)、そしてインフレ率が数十年ぶりの高水準に達したことを受けて連邦準備制度理事会(FRB)が3年以上ぶりの利上げを行った2022年1〜3月期だ。
少なくともひとつの定義によると、米国は景気後退に一歩近づくことになる。専門的には、四半期のGDPが連続でマイナス成長となった場合に景気後退とみなされる。つまり、4〜6月期のGDPがマイナス成長となった場合、景気後退入りしていることになる。
全米経済研究所(NBER)は景気後退を「経済全体に広がり、数カ月以上続く経済活動の大幅な落ち込み」と定義しており、これはGDP成長率が数四半期連続で若干マイナスになったとしても、正式には景気後退とはみなされないかもしれないことを意味する。
米資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)をはじめとする経済を熟知している人の間では、米国がすでに景気後退入りの瀬戸際にあると考えている向きもみられる。一方、米大手銀は大方、米国が景気後退に入るかどうかは微妙だと見ている。JPモルガン・チェースのエコノミストらは今年米国が景気後退入りする確率は60%と予測している。
今回のGDPの発表は、エコノミストらが経済指標の「ハードデータ」と「ソフトデータ」の乖離について議論する中でのものだ。雇用者数や小売売上高のようなハードデータは堅調な経済を示しているが、ミシガン大学の調査で消費者マインドが2022年7月以降で最も弱くなっていることが示されるなど、調査ベースの指標では消費者の信頼感は急激に下がっている。
この差は、トランプ米大統領が2期目が始まってすぐに第一次世界大戦以降で最も厳しい関税措置を導入しようとしていることに起因している。トランプの貿易政策は二転三転するため、定期的に発表される米経済の最新データの分析も複雑になっている。例えば、今回発表されたGDPには3月31日までのデータが反映されているが、4月2日にはトランプが「解放の日」を掲げて相互関税を発表し、歴史的な株安を引き起こした。そして9日には国・地域ごとに設定した相互関税の上乗せ部分を90日間停止した。
ゴールドマン・サックスのエコノミスト、デービッド・メリクル率いるチームは27日付の顧客向けメモで、「関税は増税のように機能し、金融市場を混乱させる。また、企業の間では不確実性が高まる」ため、GDP成長率は押し下げられると説明している。