教育

2025.05.06 11:30

受験戦争に「鳥の目」を:川村雄介の飛耳長目

smolaw / Shutterstock.com

国内の異常なまでの受験競争を嫌い、日本の大学受験を目指す中国の若者が増えている。著名大学の合格者も多い。しかも優秀な成績だ。過日、知人の東京大学教授が困惑気味にため息をついた。「中国人学生は頭が良いうえよく勉強する。博士課程はすべて中国人になってしまうよ」。

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受験戦争では韓国も有名である。要するに、日本、中国、韓国という東アジア諸国は受験地獄地帯なのだ。米国でも苛烈な試験競争の世界がハーバード・ロー・スクールを舞台にした映画『The Paper Chase』で描かれているが、これは成人の自らの意思による競争であり、東アジアとは環境状況が違う。

日中韓の特質は、いずれも先進国に追い付き追い越す成長戦略で、世界史に残る大成功を収めたことにある。その原動力は、教育システムによって若いころから徹底的に知識を蓄え、先進技術を取り込んだうえでさらなる工夫を加える努力にあった。これを支えてきたのが強烈な受験戦争だったともいえる。

だが、半面で大きな発明やまったく新しいイノベーションを生み出す、いわゆる 0 to 1の実績では断然、欧米に軍配が上がる。

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日本が失われた30年をさまよい、韓国、中国の成長にも陰りが見える昨今、最大の課題は 1 to 9の能力以上に 0 to 1の力をつけることにある。そのためには、産業政策や企業レベルの改革では限界がある。国力の基盤となるマンパワーの強化、端的には教育の在り方を見直す必要がある。

虎父母でも教育ママ、パパでも良い。しかし、いずれもが大所高所かつ長いスパンで判断する姿勢をもちたい。どんな猛虎でも、谷底から峰の彼方を見ることはできない。それができるのは鳥だ。欲しいのは鳥の目なのである。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

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川村雄介の飛耳長目

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