美術館やギャラリーの外に設置されるパブリック・アート(公共の場所に制作)やランドアート(屋外の広大な土地や海、河川などに大規模に展開)、サイト・スペシフィック・インスタレーション(場所の特性を活かした作品)などは、それらがある場所を訪れるすべての人たちにとって、そばに近づいて鑑賞することが可能なものだ。それらは多くの場合、その存在する環境に補完的、または対照的な形で働きかけるものでもある。
米カリフォルニア州の砂漠地帯、グレーター・パームスプリングス地方にあるコーチェラ・バレーで2025年3月8日から5月11日まで開催されているデザートX(Desert X)には、11人のアーティストが参加。地域に点在する形で、それぞれの作品を制作・公開している(WazeとデザートXが制作したアプリを使えば、それぞれの作品の場所とそこまでのルートを確認することができる)。
ディレクターはデザートXの創設者であるスーザン・デイビス。キュレーターは今回、ネヴィル・ウェイクフィールドとケイトリン・ガルシア=マエスタスが共同で務めている。
過去最高のイベントに
デザートXは2025年、5回目の開催を迎えた。これまでのイベントで制作された作品の中で、今も多くの人が話題にするのは恐らく、ダグ・エイトケンが2017年に制作した「Mirage(ミラージュ、蜃気楼)」だろう。
また、拡張現実(AR)を用いたナンシー・ベイカー・ケーヒルの2019年の作品や、ジェラルド・クラーレが手掛けた2023年の「Immersion(イマージョン、没頭)」なども、印象的なものだった。
だが、今回のデザートXは、過去の4回をさらに上回るイベントになったといえるかもしれない。中でも興味深い作品の一つは、アリソン・サールの「Soul Service Station」だ。大恐慌時代の米西部にあったガソリンスタンドのようなこの作品に使用されているのは、再利用したブリキのタイルなど。
エンボス加工のアルミニウム・アートなどを用いた内部の装飾は(アート制作を紹介する意味も込めて)、コーチェラ・バレー地域に住む子どもたちの協力を得て、作り上げたものだという。
サラ・メヨハスの「Truth Arrives in Slanted Beams」は、道路から砂漠の中へと「らせん状」の構造物がつながる、まるで(スパイラル・ランプが特徴の)グッゲンハイム美術館が砂に埋もれているようにも思えるインスタレーションだ。この作品のプレス向けプレビューでは、ジェイコブ・ジョナスが率いるダンスグループ「ザ・カンパニー」によるパフォーマンスが披露された。
また、アグネス・デネスは階段状の巨大なインスタレーション、「The Living Pyramid」を制作した。ランチョミラージュにある美術館、リチャード・ニクソン元大統領の時代に駐英大使を務めたウォルター・アネンバーグの旧邸宅であり、現在はアネンバーグ財団が運営する会議場も併設した「サニーランズ」の、目玉となっている作品だ。
この地域に特有の植物を植えたこのインスタレーションは、構造物としての形状は一定でありながら、植えられた多数の植物によって、外観の進化と変化が続いていく。デネスはプレス向けプレビューで(録画された映像を通して)、「私のこのピラミッドは、混乱の時代の楽観的な構造物です」と説明している。



