中国にとって米国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州連合(EU)に次ぐ3番目に大きな市場にすぎないことも思い出しておこう。一方、トランプは中国に対する連合を築くどころか、あちらこちらで同盟国・地域を疎遠にしている。そうして、中国が米国よりも安定し、信頼できるパートナーとして自国を位置づけられるようにしている。
問題はドルだ。ドルと米国債は世界の貿易や金融の中枢神経系にあたる。その両方への信頼を失墜させる米国大統領は、ドル以外の通貨の魅力を高めることで中国を利するかたちになっている。その通貨には、習が将来の基軸通貨にする遠大な構想を抱く人民元も含まれる。
国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミスト、ピエールオリビエ・グランシャは4月22日の記者会見で、多くの人の意見を代弁するように、トランプ2.0の貿易戦争によって世界経済は「厳しく試されている」と述べた。また、世界経済は「過去4年間の深刻なショックによってまだ相当な傷跡を負っている」としたうえで、関税によって「われわれの予測は放棄された」と説明した。
IMFは今年の世界経済の成長率予測を3.3%から2.8%に引き下げた。実際にそうなれば、新型コロナウイルス禍が始まった2020年以降で最悪、リーマン・ブラザーズの危機を受けた2009年以降では2番目に悪い水準になる。JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックスなどウォール街の大手金融機関も米国のリセッション入りに言及しているだけに、IMFの予測を無視するのは難しい。
国際金融協会(IIF)は、米経済は第3四半期に年率換算で0.8%、第4四半期に0.3%縮小するとみている。とはいえ、景気後退自体よりももっと憂慮すべきなのは、この景気後退は米国が自ら招いているものだという点だ。IIFは「貿易、インフレ、成長の各面にわたって、政策に起因する不確実性が強まっている」と指摘している。
こんなことをして、どうして米国がその友人なり、敵なりに好かれるのかは誰にもわからない。なかでも、日本が快く思っているはずがない。日本は、トランプ1.0ではいちばんの親友だった。しかし、トランプがドルを弱くするなか、輸出に依存する日本はその影響をとくに受けやすい立場にある。


