こうした状況では、世界の市場をなだめようとしているチームトランプの表面的な動きに惑わされないのが賢明だろう。長い目でみて、ホワイトハウスが対中国関税を引き下げる見込みは薄い。
すべては、トランプワールドで演じられている「柔和な警官と強面の警官」の駆け引きにかかっている。柔和な警官役であるスコット・ベッセント財務長官はこのところ、悪い警官役のピーター・ナバロ大統領上級顧問をわりと押し込んでいる。しかしアジアの当局者は、長期的にはナバロが優位に立つのではないかと案じている。
トランプが長年、変わらず持ち続けてきた経済観を踏まえれば、もっともな懸念である。その基本的な考え方のひとつは、米国の雇用や富、そして未来がアジアによって奪われている、だからそれを止めねばならないという、いかにも1980年代的な発想だ。
40年前、日本は、当時のトランプに言わせれば「米国を骨の髄までしゃぶり尽くし」「やりたい放題」の経済的巨悪だった。「日本株式会社」はその頃、ニューヨークのロックフェラー・センター、カリフォルニア州のペブル・ビーチのような有名なゴルフ場、ハリウッドのスタジオなどを次々に買収し、日本の経営者らはモネやピカソ、ウォーホルなどの作品を買い漁っていた。
言うまでもなく、日本が経済支配をめぐる「戦争に勝った」というトランプの認識は大間違いだった。日本はその後、四半世紀にわたるデフレで内向きになった。いま、かつての日本がなし得なかったような仕方で、向こう40年間を支配するだけの経済規模を有しているのは、トランプが現在執着している中国である。
ところがトランプは、その中国が経済的な影響力をさらに広げるのをむしろ手助けしている。トランプによるドルの破壊は、中国の習近平国家主席が、一般に思われているほどトランプの貿易戦争に不満なわけではないことを示す証拠のひとつだ。
もちろん、トランプが狂った競売人のように中国に対する関税を何度も引き上げるのを、習率いる中国共産党政権はおもしろく思っているわけではない。けれども中国は、米国は力強い同盟国・地域が世界中で足並みを揃えてくれない限り、巨大で急速に成長する中国経済を脇に追いやることはできないという点を理解している。そしてトランプがやっているのはその正反対、つまり米国を孤立させることなのだ。


