ハエたちはのちに、パラシュート降下で地球に戻り、生きた状態で回収された。これを機に、生命体による宇宙への旅が静かに始まった。ちなみに、宇宙犬のライカがソ連の人工衛星スプートニク2号に乗って宇宙に向かったのは、それからちょうど10年後の1957年。ソ連の軍人ユーリイ・ガガーリンが人間として初めて宇宙に行ったのは1961年だった。
キイロショウジョウバエは、科学分野で長いあいだ、モデル生物として扱われてきた。小さくて、容易に繁殖し、1940年代にしては遺伝的な解明が進んでいたからだ。寿命が短いため、世代間の影響を研究する上で理想的な生物であり、生命維持装置も最小限で済み、危険に満ちた初期の宇宙飛行にはうってつけでもあった。
それより重要なのは、ハエが放射線に敏感で、いくつかの基本的な生物学的反応で人間と共通点があったことだ。宇宙線被ばくによる遺伝的な影響を研究する上で、ハエは人間と類似点の多い貴重な生き物だったわけだ。研究者が特に関心を持っていたのは、宇宙線が生きた生体組織に与える影響だった。当時はまだ、そうした影響についてさほど分析が進んでいなかった。
2. 宇宙でも不死身の最強動物「クマムシ」

クマムシは、体長1mm以下の小さな動物だ。顕微鏡で観察すると、アニメキャラクターのぬいぐるみのようにも見える。動きが鈍く、気持ち悪いけど愛らしい。「ウォーターベア」や「モス・ピグレット(苔の子豚)」とも呼ばれるクマムシは、進化が生み出した最強動物でもある。その強さを生み出しているのは、乾燥すると乾眠状態(仮死状態)になり、水をかけると膨らんで生き返る特性だ。
クマムシは2007年、宇宙の真空環境と宇宙放射線に直にさらされても生き延びた、世界初の動物として知られるようになった。
欧州宇宙機関(ESA)は2007年9月、宇宙実験衛星「Foton-M3」でクマムシたちを、地球低軌道環境に打ち上げた。乾眠状態で10日間、宇宙空間にさらされたが、彼らは死ななかった。地球に帰還してから水分を与えると、検体のほとんどは生き返ったのだ(紫外線が遮蔽されていなかった個体の生存率は低下した)。その後産卵した個体すらあった。