クリエイターに寄り添うAIは言語や文化の壁を越える
YouTubeはテクノロジー企業として早くから人工知能(AI)技術をとり入れ、動画のレコメンデーションや字幕の自動生成など先進機能を追加してきた。モーハン氏は最先端の生成AI技術もまた「クリエイターの創造性を高めるツール」に位置付けて、今後も積極的に開発・投入する姿勢を表明している。
直近に試験的な導入から始まったユニークなAI機能が2つある。
ひとつは、グーグルの動画生成AIであるVeoのアルゴリズムをベースに、YouTubeショート動画の被写体の背景をテキストプロンプトから即座に生成する「Dream Screen」だ。モーハン氏は「かつては2カ月以上をかけていた制作作業が数日、あるいは数時間で完了する」と、その特徴を語る。
もうひとつはクリエイターが制作した動画のナレーション(声)のトーンやイントネーション、周囲の雰囲気を吹き替え音声に反映させ、より自然に聞こえるようにリップシンクも行うオーディオ系AI機能の「自動吹き替え」だ。こちらの機能は日本語にも対応する。
モーハン氏は自動吹き替えについて「クリエイターが母語で制作したコンテンツを、言葉の壁を越えて世界のファンに届けるための機能」として紹介した。YouTubeが実施した今回のプレスツアーには、日本から参加した筆者のほかに、韓国、ブラジル、インド、中東など異なる母語を持つジャーナリストが集まった。休憩時間や夕食会の席では「自動吹き替えの可能性」に関する話題で大いに盛り上がった。
モーハン氏が見た「日本独自」のYouTubeカルチャー
筆者は日本のクリエイターエコノミーについて、モーハン氏の印象を聞いた。モーハン氏は「とても成熟しているし、独自性にも富んでいる印象」を持っていると答えた。
特に、日本は「VTuber発祥の地」であることや、世界の中でもアニメ系のコンテンツが多く発信されているエピセンター(流行発信地)であることが注目に値するとモーハン氏は続けた。そして「推し」のクリエイターを熱心に応援する熱いファンダムもある。ファンがクリエイターを直に応援できるSuper Chatのようなツールが、日本で盛んに活用されている傾向も顕著だという。
日本のクリエイターからは「YouTubeがクリエイターの活躍をどのように支援してくれるのか」という問い合わせを多く寄せられるという。モーハン氏は、日本の個性豊かなクリエーションを世界に届け、クリエイターの持続的な活躍を支援する仕組みを整えることにも注力すると語っている。その一環には、YouTubeで活躍するクリエイターが集い、交流やワークショップを通じて共に成長するためのイベントやコミュニティを育てる「YouTube Creator Collective」のプログラムをさらに強化することも含まれている。


