Forbes JAPAN本誌で連載中の『美酒のある風景』。今回は5月号(3月25日発売)より、「ヘブンサケ レーベル・ノワール純米大吟醸」。フレッシュな酸味と熟した果実感が絶妙なバランスを保つ、稀有な仕上がりの1本だ。
前回の本欄で、「和食;日本人の伝統的な食文化」が2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことが国産ウイスキーの人気台頭の一因となったのでは、と考察した。その原稿を書いていた昨年末に飛び込んできたのは、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」が同じくユネスコ無形文化遺産に登録されたというニュースだ。日本酒造組合中央会によれば、24年の日本酒輸出総額は434.7億円と、輸出量とともに昨年を上回り、SAKEへの世界的な注目は上昇傾向の模様。最近は日本のみならず海外でSAKE醸造に挑戦する蔵元も現れている。
今回ご紹介する「HEAVENSAKE」も外国資本の日本酒ブランド。ヘブンサケとは聞き慣れないと思われる方が多数であろうが、実は2016年にフランスで創業。「パイパー・エドシック」などのシャンパーニュの醸造家であるレジス・カミュが、日本の伝統ある酒蔵が製造する酒をアッサンブラージュすることによりまったく新しい価値を創造せんとする前衛的な日本酒ブランドである。筆者は「農口尚彦研究所」(石川・小松)でカミュが実際に日本酒をアッサンブラージュする現場に立ち会ったことがあるが、まずキーノートとなる日本酒を決め、そこに米や製法の異なる酒を加えてはテイスティングを繰り返し......緻密ではあるが、非常に感覚的でもあり、かつためらいのない手さばきに驚愕したものだ。
さて、今回ご紹介する「レーベル・ノワール」は、そのカミュが「伯楽星」で知られる酒蔵「新澤醸造店」(宮城・大崎)とタッグを組んで誕生させた純米大吟醸酒。
「新澤醸造店」は料理をよりおいしく感じさせる“究極の食中酒”をテーマに掲げる生産者であり、この「レーベル・ノワール」もフレッシュな酸味と熟した果実感が絶妙なバランスを保つ、稀有な仕上がりとなった。「ふくよかな香りと、口中にうわーんと広がる味わい、そして余韻の長さに驚きました」と語るのは日本料理「「常」(東京・西麻布)の常安孝明大将。この日は和牛のヒレをごく薄い衣でカツに仕立て、みずみずしいクレソンのサラダを添えた一皿にあわせてくれたが、ヒレカツのうまみにお酒が負けていない。互いをふんわりと抱き合って高みへと連れていってくれるかのような極上の組み合わせであった。
フランスの鬼才を得てまた新しい表情を見せてくれる日本酒の奥深さよ。その歴史は2000年ともいわれるが、まだまだ未知の愉悦をもたらしてくれそうだ。
ヘブンサケ レーベル・ノワール 純米大吟醸

容量|720ml
度数|15%
価格|14600円
問い合わせ|Heaven Sake https://www.heavensake.com/
今宵の一杯はここで
常|極上和牛が堪能できる隠れ家割烹
西麻布の交差点近く、コンクリート打ちっ放しで現代的なビルの2階にある「常」は、看板も暖簾もないため、知る人ぞ知る隠れ家の雰囲気。日本料理の老舗「菊乃井」や「かんだ」で研鑽を積んだ常安孝明による料理はおまかせで12皿ほど。オーセンティックな和食に、「川岸牧場」(兵庫県)から送られる極上の神戸ビーフをさしはさんだコースが多くの食通たちから支持されている。

住所/東京都港区西麻布4-11-25
モダンフォルム西麻布ビルパートIII 2F
電話/03-6433-5680
営業時間/18:00~23:00
休/日・祝



