米国の裁判所で進行中のグーグルの反トラスト(独占禁止法)訴訟では、同社がChromeブラウザを事業から切り離すよう命じられる可能性が浮上している。仮にグーグルがこのブラウザの売却を強いられた場合、複数の人工知能(AI)関連の企業が買収に名乗りを上げることになりそうだ。
ロイターによると、ChatGPTのプロダクト責任者であるニック・ターレイは、OpenAIがこのブラウザの買収に興味があると証言したという。ChatGPTには現在、検索機能が組み込まれており、OpenAI はこの買収によってChromeのデフォルト検索エンジンとして同社の技術を利用できる可能性がある。
またニュースサイトThe Vergeによれば、Perplexity(パープレキシティ)の最高業務責任者(CBO)ドミトリー・シェヴェレンコも「グーグル以外の企業がChromeを品質を損なわずに、無料で運営できると思うか」と問われた際に「我々ならできると思う」と答えたという。
グーグルは昨年、オンライン検索市場で90%を超えるシェアを持つ「違法な独占状態にある」と裁判所に認定された。その是正措置として検討されている案のひとつが、Chromeブラウザの分離だ。Chromeは、Androidスマートフォンや同社製のChromebookにおけるデフォルトのブラウザとなっている。
ただし、この問題に関して近い将来に大きな動きが起こる可能性は低い。グーグルはChromeを分離するよう裁判所に命令されたとしても、それに対して控訴するはずであり、その訴訟は何年にも及ぶ可能性がある。また、仮にChromeの分離を余儀なくされたとしても、そこには複雑な課題が山積している。
最大の懸念は、Chromeブラウザの基盤となる「Chromium」エンジンの開発をグーグル自身が主導している点だ。この開発は、他社が容易に引き継げるものではなく、グーグルが他社の手に渡ったChromeブラウザのために開発を続けるとは思えない。
この問題は、Chromiumを利用している他のブラウザにも大きな影響を及ぼす。たとえばMicrosoft Edge、Vivaldi、Brave、Arcなどがそれにあたる。マイクロソフトは、Chromeを喉から手が出るほど欲しがっているかもしれないが、過去に複数の反トラスト問題に直面した同社がこの買収を許可される可能性は極めて低い。
さらに、ノートパソコンのChromebookをどう扱うかという問題もある。Windows PCやMacと比較すると市場全体では小規模とはいえ、Chromebookは依然として何百万台も存在し、大手のメーカーもChromeOSに依存している。
ChromeOSは基本的にウェブブラウザそのものに近い。グーグルがChromeの支配権を手放すことになれば、ChromeOSプロジェクトの存続も極めて困難になる。特に教育分野ではChromebookが広く使われており、このこともまた重要な問題を引き起こす。
OpenAIやPerplexityといったAI企業は、Chromeブラウザに付随するこれらの膨大な課題に本当に対処できるのだろうか。その問いに説得力のある答えを出すのは、彼らのAIチャットボットにとってさえ難しいかもしれない。