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2025.04.30 16:15

「行政依存」のまちづくり脱却。市民がつくる、スモールパブリックという“余白”

高橋:当時の加生くんは、なんかぐだぐだ言ってたから、真剣に向き合って気合い入れた記憶はあるよ(笑)。それで君、泣いたよね。覚えてるよ。

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加生:え、そうでしたっけ……(汗)でも、高橋さんが真っ正面から向き合ってくれたことは、よく覚えています。

その後、高橋さんから「東北では今、防潮堤の問題がすごく深刻だ」と聞いて、あれよあれよという間に巻き込まれましたよね。当時は、行政が推進する巨大防潮堤計画に対して、住民の間で違和感や懸念が広がっていたタイミングで、私は、結果的に岩手県大槌町に一ヶ月、住み込みで入り、住民と行政の間に立って、対話の場づくりを引き受けたり、仙台で大規模なシンポジウムを開催しました。

高橋:君は外から来たのに、あの張りつめた空気の中に真正面から飛び込んでいったよね。防潮堤の高さをめぐって住民同士も対立していたあの現場で、何の利害関係もない君が丁寧に対話を重ねていたのは、本当にすごいことだったと思う。

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2013年11月3日に開催された岩手県大槌町での対話の場 おらだちのまちはおらだちがつくっぺ~住民まちづくり文化祭~
2013年11月3日に開催された岩手県大槌町での対話の場 おらだちのまちはおらだちがつくっぺ~住民まちづくり文化祭~

加生:ありがとうございます。ただ、結果的に巨大な防潮堤は建設され、具体的な成果にはつながらず、むしろ、悔しさの方が大きかった。

あれからおよそ10年が経ちますが、「また会おうな。お前とならどっかでまた会えるさ」という言葉を胸に、この日をずっと待っていました。


高橋:僕はね、東北の防潮堤問題は、ある意味で住民自治の敗北だったと思っているんだよね。もちろん、それは大槌町だけの問題ではなくて、日本社会全体が、長年ずっと行政主体でまちづくりを進めてきた歴史があるから仕方ない面もある。

明治維新以降、この国では、いわば「生の国有化」が進んできた。つまり、自分たちの生活の意思決定を、行政や企業に外注するという構造。税金を納めれば役所がまちづくりをしてくれる、企業の商品を買えば生活が豊かになる。そういう社会モデルを、僕らはずっと続けてきた。

でも今、国も自治体も「自立してください」と呼びかける。でも、これまで観客席から傍観してきた人たちに「さあグラウンドに降りてください」と言っても、どう動いていいか分からない。いきなり震災のような非常事態が起きても、対話なんてできるはずがない。

加生:でもあの現場を経験して、「まちづくりを誰かに任せるのではなく、自分たちで考え、話し合って決めていく仕組みが平時の都市部でも必要なのではないか」という思いから2016年に「渋谷をつなげる30人」という企業もNPOも市民も行政も、まるで同級生のようにフラットにつながり、対話しながら何かを共に生み出すコミュニティを立ち上げました。
 
そんな折、高橋さんが「地方創生2.0」を推進する内閣官房「新しい地方経済・生活環境創生本部」の有識者会議メンバーに選ばれ、その基本的な考え方を知るにつれ、「この10年間、私が取り組んできた『つなげる30人』がきっと貢献できるはずだ」と感じ、2025年の2月末。「ようやく、高橋さんに会える準備が整いました」と、メッセージをお送りしたんです。

高橋:
「つなげる30人」って、地域にすでにいるのに出会ってない人たち、プロジェクトを一緒にやったことがない人たちが出会う“地域内関係人口”を作っている感じなのかな。

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文= 加生 健太朗/写真= 佐々木つぐみ

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