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経営・戦略

2025.04.27 12:00

バイオ創薬「アムジェン」が元ナイキ幹部をAI部門トップに起用した理由

ショーン・ブリュイック(Photo by Imeh Akpanudosen/WireImage)

ショーン・ブリュイック(Photo by Imeh Akpanudosen/WireImage)

米国のバイオ創薬大手Amgen(アムジェン)の初代最高技術責任者(CTO)のデビッド・リース博士は2024年、人工知能(AI)部門のトップの採用に動き出した際に、消費財や金融などの分野で経験を積んだ人材を探したという。最終的に彼が選んだのは、ナイキで11年間勤務した経歴を持つショーン・ブリュイックだった。

カリフォルニア州サウザンドオークスに本拠を置くアムジェンは、AIを活用して新薬開発のプロセスを加速したり、業務の効率化を図ることを目指している。しかし、優秀なデータサイエンティストの多くは医療業界で働いていない。そんな中でブリュイックは、グーグルやフェイスブック、ナイキを経て、時価総額が1510億ドル(約21兆円)のアムジェンに入社した。

ブリュイックのアムジェンでの役割は、製薬分野のオペレーションから規制当局への届出まで、幅広い分野におけるAIとデータサイエンスの取り組みを加速させることだ。「私は、これらの技術を実証段階から企業レベルで機能するシステムへとスケールアップさせようとしている」とブリュイックは言う。彼は、生物学の知見を持たないかもしれないが、その基盤となるデータサイエンスは熟知している。

テクノロジーや金融サービスなどの業界に比べ、ライフサイエンス業界はAIの導入が遅れている。そのため、エグゼクティブサーチ企業のZRG Partners(ZRGパートナーズ)で共同責任者を務めるジョニ・ノエルによると、アムジェンのように異業種から人材を採用するケースは多いという。

腫瘍内科医としての訓練を受け、以前はアムジェンの研究開発担当副社長を務めていたリースは、最近のAI技術の進展が製薬業界に一世代に一度の変革をもたらすと確信している。彼は、AIを活用して新薬開発の成功率を向上させ、研究段階から商業化の承認に至るまでの時間を短縮したいと考えている。

AIが持つポテンシャル

米国研究製薬工業協会(PhRMA)によると、現状では新薬が最初の発見から承認に至るまでに少なくとも10年を要し、平均26億ドル(約3690億円)の費用がかかるという。AIは、その年数を大幅に短縮する可能性を秘めている。リースはまた、AIの潜在的な活用分野として、自身が「陰の立役者」と呼ぶ工場の自動化にも注目している。

アムジェンは2024年、アイスランドのレイキャビクにある子会社で膨大な遺伝子情報を解析し、新たな治療法を見つけるために米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)製のスーパーコンピューターを導入した。ブリュイックは、医療業界の経験こそないが、データの複雑さやAI導入を加速するための他社との協業に関しては経験が豊富だ。

彼は、データサイエンスがまだ黎明期だった2006年にグーグルでキャリアをスタートさせ、その後フェイスブックで広告販売に従事した。ナイキでは、データを活用した測定と予測により内部オペレーションをデジタル化する取り組みの責任者を務めた。

「私がまず活かしたいのは、フェイスブックで培ったアルゴリズムの知見と、ナイキで培ったダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC。消費者向け直販)プラットフォームの構築や、顧客体験の設計・改善のノウハウだ。ナイキでは、マーケターにデジタルマーケティングのノウハウを伝え、ビジネスリーダーにデータ活用の方法を指導していた」とブリュイックは言う。

ブリュイックにとって生物学はこれまで未知の分野だったが、基盤となる技術は業界を超えて応用可能だと彼は考えている。「私はサイエンスオタクなので、今がバイオテクノロジー分野に参入する絶好のタイミングだと理解している」と明かした。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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