SMALL GIANTS

2025.05.03 13:15

Sサイズが拓く、ジェンダーレスの扉──多様性の先にある市場とは

ジェンダレスを打ち出し出展した展示会(サンブロス提供)

ジェンダレスを打ち出し出展した展示会(サンブロス提供)

アパレル業界ではいま、ジェンダーレスファッションやサステナビリティへの対応が新たな成長戦略として注目を集めている。そうした潮流の中、愛知県名古屋市のアパレル企業・サンブロスが展開するメンズカジュアルブランド「Quash(クアッシュ)」は、2025年春夏シーズンより新たな市場開拓に乗り出した。

同ブランドはこれまでメンズ向けとして展開していたTシャツなどの製品を、ユニセックスコレクションとして本格的に展開。従来のM・Lサイズに加えてSサイズを導入し、女性デザイナーの採用によって製品開発にも多様な視点を取り入れた。性別を超えて選ばれるブランドを目指す取り組みが始まっている。

この戦略の背景には、急成長するユニセックス市場、Z世代を中心とした価値観の変化、さらにはインバウンド需要やSDGs対応といった社会的な要請がある。サイズという小さな切り口が、新たな需要を掘り起こす契機になっている。

サンブロスとQuashのこれまで

1965年にセーター製造業として創業したサンブロス。拠点を構える愛知県や岐阜県一帯は、かつて織物業が盛んだった尾張・美濃地域を中心に、綿や麻などの繊維産業が古くから発展してきたエリアだ。豊富な水資源を活かした染色・洗い加工の技術が集積し、水力発電の整備も早かったことから、アパレル関連の中小企業が集まりやすい土壌があった。サンブロスもまた、そうした地域性を背景に、地場のアパレル産業を長年にわたり担ってきた。

だが、近年のアパレル業界では生産の海外移転やSPA(製造小売)ブランドの台頭により、地域産業の地盤沈下が課題となっている。

そうした中、2016年に現代表・小林久敏氏が社長に就任。小売店向けに販促支援サービスを提供するなど、従来のモノづくり中心の企業からマーケティングやブランディングの視点を取り入れた企業へと進化を遂げている。

※サンブロス・小林久敏氏(筆者撮影)
※サンブロス・小林久敏氏(筆者撮影)

なぜ、メンズブランドはSサイズを作らないのか

日本のメンズアパレルでは、Sサイズの展開は一般的ではない。標準体型に合わせたサイズ設計、ルーズシルエットのトレンド、そして生産効率の観点から、Sサイズは"非効率"と見なされてきた。だが、Quashはこの通念に疑問を投げかけた。

展示会でのSサイズ展開では、男女それぞれのモデルを起用したユニセックスのプロモーションが功を奏し、新規取引先の関心を集めた。とくに以下の2つの視点が顕著だった。

1つ目はアジア圏の旅行者からの反応。たとえばフィリピン人男性の平均身長は166cmとされ、小柄な体型が多いが、日本のメンズブランドではSサイズが手に入らない。観光地に店舗を構える小売業者からは、Sサイズが「インバウンド向け商品として差別化につながる」との声もあがった。

2つ目は女性からの支持である。レディース市場では、すでにメンズアイテムを取り入れるスタイルが一般化しているが、「MやLでは大きすぎる」「Sサイズならちょうどよい」「メンズと書いてあってもSサイズなら購入しやすい」という意見が展示会で多く寄せられた。サイズ表記が購買心理に影響することを改めて認識させる反応だった。

※展示会では女性のマネキンにコーディネートし、ジェンダレスを提案(サンブロス提供)
※展示会では女性のマネキンにコーディネートし、ジェンダレスを提案(サンブロス提供)
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