丸井グループにみるマイノリティ対応の可能性
サイズ展開の見直しが新たな市場を呼び込んだ事例として、百貨店・丸井グループの取り組みがある。LGBTQ+の就活生に向けたスーツの試着会を開催し、性別にとらわれず、自分に合ったスーツや靴を選べる環境を整えた。
たとえば、身長178cm、足のサイズ28cmのトランスジェンダーの学生が、ジャケットとパンツはレディス、靴はメンズという組み合わせを選択。「自分の理想の装いができた」と語ったという。
このようなジェンダーフリーな提案は、トランスジェンダーの当事者に支持されただけでなく、体格が平均的でない“体格的マイノリティ”にも響いた。婦人靴の「体験ストア」では、19.5cm〜27cmという幅広いサイズを試し履きできるようにし、22cm以下・25cm以上の端サイズの売上構成比が通常の27%から47%へと増加した。
特定の少数派に丁寧に応えることで、他の少数派にも波及する。この構造は、QuashがSサイズの導入によって見出した市場構造と重なる。誰かにとっての“ちょうどよさ”を叶えるアプローチが、新たな共感を呼び、結果的に企業の新市場開拓にもつながっていく。
視点の転換が顧客を生む。中小企業のひらめきと工夫
経営学者ピーター・ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創造」であると説いた。あふれる商品が並ぶいま、価格や性能だけで差別化するのは難しい。だが、視点を変えることで「気づいていなかったニーズ」に応えることができる。
たとえばアーネスト(新潟県三条市)は、刻み海苔用のハサミを「シュレッダー用ハサミ」として再定義し、販路を家庭用品からオフィス用品へ広げた。ぺんてる(東京都中央区)は、筆ペンにさまざまな色インクを充填した「アートブラッシュ」シリーズで、カリグラフィーやイラスト市場という新たな顧客を創造している。
ジェンダーレスという社会的トレンドを取り込みつつ、Sサイズという「当たり前にないもの」に目を向けたQuashの戦略は、新たな女性顧客やインバウンド市場を掘り起こし、顧客の創造につなげた好例である。そして、中小企業ならではの俊敏さを活かした先進的な取り組みといえる。
小さな“気づき”が、やがて大きな市場を動かす。その一歩を踏み出したQuashの挑戦は、多くの中小企業にとってのヒントとなるはずだ。


