テクノロジー

2025.05.01 08:15

認知症に香りで挑む、嗅覚VRゲームが記憶力に作用する仕組み

プレスリリースより

プレスリリースより

嗅覚と記憶には密接な関係があり、認知症になると嗅覚が衰える。反対に、嗅覚を刺激すると認知機能が改善されるという報告もある。そこで、高齢者の認知機能を改善するためのVRゲームが考案された。ただバーチャル空間を歩くだけのものではなく、さまざまな香りを提示する「嗅覚ディスプレイ」を用いた嗅覚VRゲームだ。

これまでも香りを使った認知機能改善の研究は行われてきたが、直接匂いを嗅がせるしか方法がなく効果に限界があった。そこに現れたのが嗅覚ディスプレイだ。東京科学大学総合研究院の中本高道特任教授は、2022年、さまざまな香りの元になる「要素臭」を20種類特定し、その精油を調合して瞬時に望む香りを提示する装置を発表した。パソコンやスマホのディスプレイが光の3原色を組み合わせたフルカラーの映像を作り出すように、要素臭から数多くの香りを作り出すことから「嗅覚ディスプレイ」と名付けられた。

嗅覚ディスプレイの原理(東京科学大学公式ホームページより)。
嗅覚ディスプレイの原理(東京科学大学公式ホームページより)。

東京科学大学をはじめ、文京学院大学、ロンドン藝術大学、法政大学による研究チームは、この嗅覚ディスプレイとVRを組み合わせれば、「実世界での刺激を没入的に楽しみながら疑似体験」ができて、より効果的に認知機能を改善できると考えた。そして、工学、心理学、芸術の研究者が結束して嗅覚VRゲームを作り上げたのだ。

嗅覚ディスプレイ。
嗅覚ディスプレイ。

ゲーム内容はこうだ。プレイヤーがVRゴーグルを付けてゲーム空間に入ると、あちらこちらに色の付いた雲が浮かんでいる。雲に近づくと何かの香りがする(嗅覚ディスプレイから出力される)。プレイヤーはその香りを記憶しておく。さらに別の雲に近づき、さっきの香りと同じかどうかを判断する。

プレイ中の様子。
プレイ中の様子。

ゲームには63歳から90歳の30人が参加した。6日の間隔をあけて2回プレイしてもらい、1回目のゲーム開始前と2回目のゲームの後に複数の認知テストを行った。その結果、「ひらがなローテーション課題」と「単語空間記憶課題」という2つのテストでゲーム後のスコアが有意に上がることが確認された。これらは認知と記憶に関連する視空間処理を必要とするものだ。そこから、認知と記憶の機能が改善されたと考えられる。

嗅覚ディスプレイはすでにさまざまなエンターテインメントに活用されているが、今回の実験により、社会的課題の解決にも貢献できることが期待されると研究チームは話している。今後は、この効果が持続的なものか、繰り返し行うことで効果が変わるのか、また視覚刺激と嗅覚刺激の寄与の割合などを解明していくとのことだ。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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