米国内需要の急増と関税対策を念頭に、ラスベガスに本社を置くMP社は賭けに出た。採掘した鉱石を製錬したレアアース精鉱の対中輸出を停止したのだ。中国はレアアース精鉱の世界最大の輸入国で、MP社の最大顧客であり、売上高の90%を占める。同社は2024年、総売上高2億390万ドル(約290億円)のうち1億4440万ドル(約205億円)が中国向けだったと報告しており、リスクの高い動きといっていい。代わりにリティンスキーは米国、日本、韓国で新規顧客の開拓を強化している。
「当社の貴重な重要原料を125%の関税下で販売するのは商業的に合理的ではなく、米国の国益にも合致しない」とMP社は発表。「当社は設立当初からこの瞬間に備えてきた」と宣言した。
短期的な売上損失と貿易戦争の混乱を乗り切れさえすれば、MP社のメリットは大きい。重要鉱物の安定供給を米国内で確保できる同社は、インフレ高進と景気後退懸念で金融市場を揺るがすトランプ関税下で数少ない「勝ち組」になり得る。同社の株価は18日時点で年初来69%上昇している。
レアアース磁石の中国依存をめぐっては、ミサイルや戦闘機、ドローンといった軍事ハードウェアのサプライチェーンを主要仮想敵国に握られているも同然だとして、かねて問題視されてきた。生産強化はMP社にとって、イニシアチブをとる機会でもある。
MP社が中国市場からの撤退を発表する前の今月7日、カロはこう記していた。「レアアースは地政学的な舞台でおそらくかつてないほど大きな位置を占めており、MP社が米政府の開発戦略に助言する機会があるのではないかと考えている」
かつての金鉱
MP社は設立から8年かけて、トランプ関税に起因するレアアース市場の混乱に対抗できるだけの足場を整えてきた。
ラスベガスから約8.6km、州間高速道路15号線から少し入ったところにある同社の露天掘り鉱山は、もとは1936年に開山した金鉱だ。1949年にレアアース鉱床が発見され、1952年にモリブデン・コーポレーションが商業採掘を開始した。生産は拡大し、2005年には後にシェブロンの一部門となったユニオン・オイルに買収されたが、中国企業との価格競争と有毒廃棄物の流出を受けてレアアースの採掘は中止され、2002年に閉山した。
シェブロンは2008年にマウンテンパス鉱山をモリコープ・ミネラルズに売却。同社は2012年に鉱山の操業を再開したが、事業拡大に失敗し、2015年にマウンテンパスの破産を申請した。その直後、リティンスキーは自ら設立したヘッジファンドのJHLキャピタル・グループを率いて鉱山の経営権を買い取った。レアアース事業には成功の目があると踏んだのだ。