関西ネイティブで固めた出演陣
映画「花まんま」では、小説では描かれることのなかった「生まれ変わり」の物語のその先まで描かれていくことになるが、前田監督は「兄妹のその後が見たくなった」と、独自のエピソードを描いた理由を語っている。
<フミ子は明日、大好きになった同い年の男と結婚するのだ。学級肌の、マジメを絵に描いたような男だ。少し気弱なところもあるけれど、誠実で優しいのは俺も認める。
しばらくは、まぁ、あいつに任せておこうかと思っている。>
小説のラストはこのような文章で締めくくられているが、映画ではこの後の物語が、さらに兄と妹の心のすれ違いを中心に描かれていく。もちろん、前田監督が直木賞受賞以来あたため続けてきた原作へのリスペクトを堅持しながらだ。
また原作小説では会話の部分はほとんど関西弁で語られているのだが、映画でもその味わいは生かされており、そのためか出演者の鈴木亮平(兵庫県西宮市出身)や有村架純(兵庫県伊丹市出身)をはじめ、ほとんどの配役が関西ネイティブの俳優で固められている。
撮影も原作の舞台そのままに、京都の撮影所を中心に、ロケは物語の鍵となる彦根市はもちろん、大阪府の東大阪市や兵庫県の明石市などの関西地区で行われている。特に俊樹とフミ子の住む家は関西特有の二階建て文化住宅で、実際にセットまで建てられたという。
「生まれ変わり」というファンタジーな題材ではあるが、このようなディテールへの徹底したこだわりが、ただの絵空事の物語にならず、観る者の心を捉えて離さない作品にとなっている。
また映画では、原作小説には登場することのない新たな人物も設定されており、フミ子の結婚相手で、彼女の秘密をいち早く知らされる中沢役を演じる鈴鹿央士(岡山県出身)は、カラスと会話ができる研究者というユニークな設定を実直に演じている。
また、2人きりの兄妹を見守ってきた近所の人間たちも登場し、なかでも俊樹の幼馴染でお好み焼き屋を仕切る駒子役のファーストサマーウイカが大阪府出身らしく、言葉から派手な衣装まで完璧な地元民を演じ切っている。
前田監督もまた大阪府の出身だが、これまで「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(2018年)、「そして、バトンは渡された」(2021年)、「九十歳。何がめでたい」(2024年)など、心優しい眼差しで描く話題作を次々と発表してきた。
今回の「花まんま」は、20年近い原作への熱い思いとディテールに対する細心かつパーフェクトな演出で、前田哲監督の最高傑作となったかもしれない。


