メタバースの店舗で買い物をするときはアバター店員が対応してくれる。また近ごろでは、オンライン会議にアバターで参加する動きもある。相手がアバターのほうが意見が言いやすいなどの心理的影響が報告されているが、重要な意思決定を行う際もアバター相手だと人間相手のときは違った気持ちになるようだ。そこをよく知っておかないと、痛い目に遭うかもしれない。
画面の向こうで応対する相手が人間の場合とアバターの場合とでは、人の意思決定に違いが生じるのか。情報通信研究機構(NICT)と未来ICT研究所は、それを確認すべく、「リスク判断に関する課題」を使った実験を実施した。これは「確実」か「不確実」かをボタンで選択するゲームのようなものだ。「確実」を選ぶと報酬80円が確実にもらえる。「不確実」を選んだときは、当たればたとえば300円がもらえるが外れたら0円という、いわば「賭け」になる。その様子を「観察者」が見ているという想定で、目の前の画面に人間またはアバターの顔が映し出される(ヒト条件とアバター条件)。「不確実」を選んで成功すると、観察者は「賞賛の表情」を見せ、失敗すると「軽蔑の表情」を見せる。人条件とアバター条件は6〜13回の試行ごとに切り替わる。
この実験では、アバター条件のほうが「不確実」を選択する傾向が強いことがわかった。「不確実」の報酬は変動する。期待値が上がるほどヒト条件でもアバター条件でもそれを選ぶ割合が高くなるが、アバター条件のほうがさらに高くなる。それには、ボタンを押すときの観察者のどちらともつかない曖昧な表情が影響しているという。その曖昧な表情を、人間よりもアバターのほうを好意的に感じる傾向が、脳の活動部位の解析からわかったのだ。ボタンを押すとき、つまり曖昧な顔が表示されるタイミングでは、とくに恐怖や不安に深く関与する扁桃体の活動が見られた。
アバター条件で「不確実」を選ぶことが多い人は、扁桃体の不確実性に対する活動が低下し、ヒト条件では活発になる。つまり「不確実」を選ぼうとしたとき、人間の顔には不安を覚えて躊躇するが、アバターには不安を感じないと解釈できる。そこには、不安や対人関係に関する性格特性が関与しているという。調査では、共感性の強さを測る対人反応性指標のスコアが「不確実」の選択と相関していることもわかった。人間の顔からは気持ちを察してしまうのに対して、アバターにはそれがなく気にならないということなのだろうか。
ともかく、アバター相手にリスクをともなう意思決定を行う際には、そうした傾向を踏まえて、より慎重に行動すべきという教訓が得られた。研究グループは今後、アバターの性別、年齢差や個人の性格特性との関係、リスク選択以外の意思決定課題への影響など、系統的に調査を進めるということだ。



