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2025.05.02 15:15

そのビジョンは「社内で生きている」か。遊具の展示会に行って考えたこと

イベントのテーマであるさまざまな「あそびでこえる」を展示

イベントのテーマであるさまざまな「あそびでこえる」を展示

PARaDE代表の中川淳が、企業やブランドの何気ない“モノ・コト”から感じられるライフスタンスを読み解く連載。今回は遊具の展示会なのに「なかなか遊具を見せてもらえなかった」という体験から見えてきた、ビジョンを実現するためのプロセスモデルや実行力の重要性に迫る。


展示会にはその企業の“今”が映し出される。新製品の披露、ブランディング、関係構築などさまざまな目的で企業は展示会を行うが、そこで最も重要な会社の「ビジョン」や「志」まで伝えきれているかというと、「NO」と言わざるを得ないケースが多いのではないだろうか。

先日、福井県に本社を構えるジャクエツが主催する展示会「こども環境サミット/ 共遊空間EXPO」を訪れた。ジャクエツは保育施設向け遊具や環境設計を手がける企業で、「未来は、あそびの中に。」というビジョンを掲げている。その言葉だけを見ると、どこか抽象的でふわふわとした印象を受けるかもしれない。だが、展示会場に足を踏み入れた瞬間、その背後にある、確固たるビジョンの息づかいを感じた。

遊具メーカーなのに遊具が見当たらない

実はジャクエツは、障害の有無にかかわらず誰もが遊ぶことができる遊具「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」で、2024年のグッドデザイン大賞を受賞している。私自身、グッドデザイン賞の理事を務めていることもあり、この遊具を実際に見てみたいという期待を胸に会場に向かった。ところが、展示会場に入っても遊具が見あたらない。遊具メーカーの展示会であれば、大型遊具が真っ先に目に飛び込んでくるものだろう。だが、2階のエントランスを抜けてまず見えてきたのは、意表を突く“文字だらけ”のパネル群。プロジェクトの概要、研究成果、そして同社の思想が丁寧に言語化されていた。

一般的な展示会では、まず商品を見せ、その商品がもたらすライフスタイルを提案し、その背景にある思想を紹介するという順序が多い。だが、ジャクエツの展示はその逆をいく。最初に示されるのは、ビジョン、研究のプロセス、プロダクトの背後にある思想であり、それを咀嚼したうえでようやく階下に進むと、実物の遊具や導入事例が現れる。そこには「製品だけではなく、ライフスタンスを伝えたい」という明確な意志があった。

昨今、ビジョン、ミッション、パーパスの重要性が語られる機会が増え、多くの企業が立派なビジョンを掲げるようになった。しかし、そのビジョンが本当にワークしているか、社内に浸透し、事業戦略として実行されているかと問われると、答えに窮する企業も多いだろう。

ジャクエツの展示会で特に印象的だったのは、「あそびによる未来価値創造ループ」という独自のプロセスモデルを、プレゼンテーションの軸として据えていたことだ。しかもそれがトップダウンではなく、現場から自然発生的に生まれたものだと案内してくれた現場スタッフが話してくれた。これは、社内でプロセスモデルがしっかりと共有され、実際に“生きている”証である。まさに「ビジョン→プロセスモデル→実行→発露」という、ビジョン達成のための理想的な循環が巡っており、他の企業にとっても大きな学びとなるはずだ。

「あそびによる未来価値創造ループ」という独自のプロセスモデル(ジャクエツ提供)
「あそびによる未来価値創造ループ」という独自のプロセスモデル(ジャクエツ提供)
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文=中川淳 構成=国府田淳

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