「世界は日本のクリエイターを見ている」だからこそ、日本企業に問う
井口と三上は、Sphereのプロジェクトを通じて、日本のクリエイティブがグローバルに通用するどころか、むしろ世界から強く求められている実感を得たという。しかし、その一方で、彼らの活躍が「日本発の成果」として正しく認識されていない現実にも直面している。
「今回のSphere事例のクライアントはAdobeですが、ラスベガスの年始のテクノロジー祭典CESでもSamsungやヒュンダイのブースデザインのクリエイティブや演出をCEKAIは手がけております。大型の祭典のブースデザインを手掛けるとSamsungすごい! ヒュンダイすごい! 日本の企業ももっとあのように! となりますが、米国や韓国企業の名前で話題になっていたとしても、日本人の僕らがその話題を後押しするクリエイティブを作っています。そのような体験を繰り返す中で、もっと日本人として日本企業の大きな挑戦を後押しするクリエイティブを、発揮できればしたいと思うのも事実です。なぜならば僕らが受け取るべき評価や経験が、海外企業の名前の元のみで流通してしまうのは日本人としては歯痒いからです」(井口)
彼の言葉が突きつけるのは、もはや「日本のクリエイターは世界で戦えるのか」という問いではない。実際に最前線で成果を上げているクリエイターたちが存在しているのだ。問題は、その力を“誰のために”使っているのかという点にある。
CEKAIが手がけるプロジェクトの8〜9割は、エージェンシーを介さない直取引だという。
「僕らが直接やり取りしているクライアントには、社内にクリエイティブディレクターやアートディレクターがいて、自分たちの課題や、どんな表現をしたいかが明確な人が多い。だから議論が早く、設計の質も高まるんです」(三上)
企業が内製で表現を完結させるという意味ではない。むしろ逆である。自らのブランド課題を正確に理解し、アウトプットにまで責任を持てる人材が企業内にいるからこそ、外部のプロフェッショナルと高次元で連携が可能になる。
「日本でご一緒しているクライアントにはイッセイミヤケ、ユニクロのようなアパレル企業の他、三井不動産、ファミリーマート、DNPなどのいわゆる大企業がいるのですが、どの企業の中にも感度が高く、クリエイティブの判断ができる方々がいるので、我々に求めてくる事も明確であり、私たちもその上で自由な発想でものづくりができている印象があります。最近は直接的な制作依頼に留まらず、新規事業開発やR&Dなどにクリエイティブリソースを活用いただく機会も増えてきています。日本企業の中に、クリエイティブディレクションができる人や、俯瞰で見れる人が増えればそれがブランドや事業の強度につながると思います。」(三上)


