アート

2025.04.24 14:15

日本人クリエイティブ初の快挙。CEKAIが挑んだラスベガス Sphere 、企業に問われる次の一手

円柱から球体へ──ゾートロープ的発想の拡張としてのSphere

クリエイティブの挑戦にも触れておきたい。井口皓太の表現哲学の中で、今回のSphereプロジェクトを語る上で特に興味深いのは、映像を円柱状に展開、古典的なアニメーションの装置=ゾートロープ的思考を、現代的な3Dと球体表現へと拡張したアプローチである。

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ゾートロープとは、アニメーションの原点とされる技法で、回転する円柱の内側に絵を並べることで、連続した動きを生み出す装置だ。井口はこの構造に着目し、それを現代のLED技術と3D空間に持ち込むことで、新しい映像体験を生み出そうとした。

今回CEKAIが挑んだSphereは、しかしこの「円柱」の次元にとどまらない。視点が360度全方位に存在する「球体」であるという点において、視覚構造としても、制作工程としてもまったく別次元の設計が求められる。ゾートロープのように規則的な回転を想定できる円柱とは異なり、どこから見ても破綻しない映像を作り出す必要がある。そこでは円柱型のアニメーションを球体に包み込むように展開するという、これまでにない思考と設計が求められる。

井口は、ゾートロープの構造をヒントに、球体上で映像を展開する手法を模索したという。LEDスクリーンを球体に沿わせるためには、映像をいかに自然にループさせるか、構造的なズレなく接合させるか、そして空白を生まないように繋ぎ込むか━━こうした課題に対して、精緻な映像設計が求められた。

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グラフィック、デザイン、映像、空間、構造。まさに四次元的とも言える複数領域を横断しながら、従来にない新たな映像体験を築き上げていく。そのプロセスは、言葉で説明するのは簡単だが、実際にはいくつもの技術的・創造的なブレイクスルーを重ねて初めて実現されたことは想像に難くない。ゾートロープという歴史的技術を現代の空間インスタレーションへと昇華させたこの思考と実践は、Sphereのような立体媒体に挑戦するクリエイターにとって、今後の重要な設計思想の指針となるだろう。

CEKAIが手がけた Sphere クリエイティブは以下Vimeoから確認可能だ。

Adobe Summit 2025: Sphere Experience – Video World

Adobe Summit 2025: Sphere Experience – Collage World

Adobe Summit 2025: Sphere Experience – Illustration World 

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文=西村真里子

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