リーダーシップ

2025.04.25 11:00

災害時や戦場の医療改革に学ぶ「修羅場」のリーダーシップ

Gorodenkoff / Shutterstock

戦略的思考と戦術的思考を融合させた顕著な例の一つが、イスラエル国防軍(IDF)の取り組みだ。彼らは戦闘時の致死率(CFR)を、2006年のレバノンでの15%から、2024年のガザでは6.5%にまで低減させた。当時IDFの軍医総監を務めていたイーロン・グラスバーグは、負傷した兵士に必要な救護をより速く与えるためにIDFが実行した5つの改革について、筆者に説明してくれた。

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1. 負傷した場所(前線)における最先端医療の実施

IDFでは、医師や救急医療士の配置場所を、大隊に置かれた救護所から、中隊レベルのより前線に近い位置に移し、受傷から治療を受けるまでの時間を4分以下にまで短縮した。

前線に派遣される、専門知識を持つ医療従事者には、輸血をはじめとする緊急医療行為を行うのに必要な機器や備品が支給された。さらに、「迷ったら重症度を高めに判断するトリアージ」を心がけることで、トリアージにかかる時間を短縮し、より多くの負傷兵に、より速く、より多くの必要な救護を届けることが可能になった。

2. 負傷兵移送の高速化

IDFでは、装甲で守られた「緊急脱出カプセル」を新たに配備した。これには、中間のステップを省いて負傷兵を前線から直接、近くの病院、あるいは病院に向かうヘリコプターに移送するという目的がある。これにより、受傷から、完全な機能を持つ病院への移送時間は、平均180分から48分に短縮された。

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外傷性障害による死亡例の90%は、受傷から1時間以内の「ゴールデンアワー」に起きるため、これによって「生存可能性のある」命を救えるケースが大幅に増えた。

3. 院外での蘇生措置に効果を発揮する血漿や血液の配備

IDFでは、血液の代用液として広く用いられているが有効性が低い生理食塩水に代わって、フリーズドライされた血漿を採用した。現在では、前線に配置される医療スタッフ全員がこれを携行している。さらに、前述した緊急脱出カプセルやヘリコプターについては、配備品に全血(血液中のすべての成分が含まれた血)を追加している。

4. 重要性の低いステップを省略して、手順を合理化

IDFでは、負傷兵の救護において比較的重要度の低いステップを省略した。例としては、緊張性気胸(胸腔内に空気が貯留し、肺や心臓を圧迫して呼吸困難や血圧低下を引き起こす重篤な状態)を防ぐための、針を用いた減圧や、前述した大隊救護所などだ。

これは、負傷兵に必要な救護を提供する際に、これらのステップがあるために余計な時間がかかり、救える兵士よりも、状態が悪化する兵士の方が多いケースがあることが判明したからだ。

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翻訳=ガリレオ

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