テクノロジーの急速な進化などビジネスや経営環境が激変する現代において、柔軟に判断・行動でき、成果を形にできる人材育成・人材開発が改めて重視されている。しかし、その不確実性の高さから、組織は採用と育成の方向性に悩み、個人は自らの市場価値の不安定さにおびえている。どんな状況下においてもパフォーマンスを発揮できる人材になるには、どんなスキルが必要なのだろうか。
「7つの習慣®」研修プログラムをはじめ、人の内発的動機づけから高いパフォーマンスを発揮する人材開発を手がける、フランクリン・コヴィー・ジャパンのフェロー/コンサルタントの佐藤亙に聞いた。
混迷する世界経済の余波も受け、ビジネスや経営環境の不確実性は高いままだ。
もとより昨今のテクノロジーの急速な進化は、ビジネスパーソンに必要なスキルを急激に陳腐化させるようになった。情報収集力、データの分析力、語学力……。これらは生成AIをはじめとするテクノロジーに代替されはじめ、じわじわとその価値を下げている。
少子高齢化や価値観の多様化により、産業構造そのものも様変わりし始めた。加えて労働人口の減少もすさまじく、業界を問わず人手不足にあえいでいる。そんな時代に、どのような人材を獲得し、どのような人材を育成すればいいのか――。企業経営者や人事・HR担当者の多くが頭を抱えているだろう。
ひとつの解として、佐藤は「人格の成熟度の高い人材です」と言い切る。
『7つの習慣』では人の成熟度は3段階あると伝えている。
一番低いレベルは「依存」である。このレベルにいる人は常に他人や環境のせいにしてしまう。次が「自立」だ。自立レベルにいる人は、自分のことに責任を持って、自分で考えながら動くことができる人である。そしてコヴィー博士は、成熟度のレベルにはもう1段階上があると言っている。それが「相互協力(相互依存)」の状態だ。自分1人ではなく周囲と協働して、より良い成果を生み出す力である。1人では限界のあることに対して、他の人の力をうまく掛け合わせながら働ける人は、より高い付加価値を生むことができるのだ。
能力を最大化させるためには、人格の成熟度を高めることが必須
『7つの習慣』といえば全世界で4000万部、日本でも260万部の売上を誇る大ベストセラー。既に読んだ人も多いだろうが、実は本書の原題は『THE 7 HABITS OF HIGHLY EFFECTIVE PEOPLE』。直訳するならば「とても効果的な人々の7つの習慣」である。
「効果的な人」とは、「自分たちが望む成果を出し続けられる、高い成熟度を身につけた人」と定義している。そして一番上のレベルの成熟度「相互協力」の状態を身につけるためのマインドセットを体系的にまとめたものが『7つの習慣』だ。
そもそも『7つの習慣』とは何か?簡易に羅列すると以下となる。
①主体的である
②終わりを思い描くことからはじめる
③最優先事項を優先する
④Win-Winを考える
⑤まず理解に徹し、そして理解される
⑥シナジーを創り出す
⑦刃を研ぐ
「当たり前のことばかりじゃないか」――そう思った方は正しい。
「いつの時代も変わらない原理原則である証左です。スキルや技術も高めるが、それと同時に、この不変の原理原則を身につけ、人格の成熟度を高めることが望む成果を出し続けられる人材の条件になる。私たちは、この全体像を“木”にたとえています」

木の“枝・葉”など、目に見える部分は、人の「能力」にあたる。表面から見えて目立つが、枝・葉=能力を支えているのは、その下にある“根っこ”だ。
「この根っこの部分が『人格』であり、人としての成熟度やマインドセットだといえます。根っこが強くなければ、いくら美しい葉や花を育てようとしても、逆境や急激な変化に直面した時に根っこから倒れてしまいます」
たとえば生成AIを使うことは、木でいえば“枝・葉”にあたる。AIを使ってクリエイティブ制作やデータ処理ができるようになり工数を大幅に削減できるようになった。しかし、目の前の顧客が課題に対してどんな思いを抱えているか。それを汲み取って共感し、理解する力「EQ」(対人感受性)がなければ、素晴らしいアウトプットも無用の長物でしかない。
「根っこ=人格の部分が鍛えられていなければ、能力を効果的に発揮できず、付加価値を生み出せない。裏を返せば、根っこが育てばどんな葉もすくすくと育ってくる」
時代の激しい変化に伴い、産業そのものが衰退するスピードも早まっている。企業も事業ポートフォリオも柔軟に変えざるを得ない状況が生まれている。となれば、同時に従業員も能力をフレキシブルに変化させなければならない。
「だからこそ、人格(根っこ)と能力(枝・葉)の両方が優れていることが必須です。不確実性が高く、必要な能力が目まぐるしく変わる今こそ、人格の成熟度にも改めて向き合うべきなのではと思います。『7つの習慣』こそ、そこを強化するためには極めて強力なツールであると自負しています。『主体的』であったり、『Win-Winを考える』であったり、こうした思考のクセが根付いていれば、どんな時代にも対応できるのです」
フランクリン・コヴィー・ジャパンはこの『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー博士著)をベースにしたプログラムを開発し、望む成果を出し続けられる人材教育を手掛けている。
人材教育としての「7つの習慣®」研修プログラム
能力やスキルといった“枝・葉” の部分を学び、習得するプログラムや研修は多いが、“根っこ” の部分、人の成熟や思考のクセを根付かせる仕組みは少ない。また、心がけるべき姿勢や考え方などは知られていても、それを当たり前の思考習慣まで結びつけることが難しい。
フランクリン・コヴィーの人材教育は、短期間の座学研修にとどまらない。『7つの習慣』のセオリーをフレームワークに落とし込み、半年~1年と時間をかけながら、日々の行動の原理原則として日常生活に応用し、定着させることを目的としている。
「たとえば、ある営業職の方は、私たちの研修を受けたあと、『単価の低い製品をおすすめする機会が増えたために、短期的な営業成績は落ちた』とおっしゃっていました。理由は本当にお客さまにとって、何が必要かを考えて商品提案をすることが当たり前になったから。高額商品を押し付けず、お客さまの視点で何が課題で、何が最適解かを考えるようになったのです。そんな思考が根付いたから、結果としてリピートするお客さまが増え、長期的には営業成績は飛躍的にアップしたそうです」
研修は「福利厚生」ではなく、リターンを求める「投資」
30年にもわたり、不変の原則を教えてきたフランクリン・コヴィー。しかし、その伝え方、プログラムの形を、時代に即してフレキシブルに進化させてきた。そして、今年、11年ぶりに大幅リニューアルを果たし、6月頃から順次サービスを提供する。
「今回のバージョン5.0でも『7つの習慣』に基づく原理原則が変わることはありません。しかしプロセスラーニング(設計された学習プロセス)を通して一人ひとりに、またはチームや組織全体により深くインストールしやすいものへと進化させました」

組織内に根付かせるためには、「7つの習慣®」研修プログラムでは、社内にトレーナー的な役割の人材をつくることが多い。そのため、彼らがより使いやすいよう、プログラムをシンプルにカスタマイズしたという。
こうした研修を提供する際、フランクリン・コヴィーが強く意識して伝えているのは、「研修は福利厚生ではなく投資であるべき」ということだ。
「日本では企業も従業員も研修を福利厚生のように捉えがちです。社員食堂や食事手当のようなものだと捉えているから、『今回の研修は良かった・悪かった』と、『今日の定食がおいしかった・そうでもなかった』くらいの感想にしかなりません。研修は貴重な「人財」に対する“投資”です。投資である以上、着実にリターンを求める必要がある。
我々は、お客さまと一緒に『何を達成したいのか』つまり『何をリターンとして得たいのか』を考えます。その上で『誰にどのように投資すれば最大のリターンが得られるのか』という視点でプロセスラーニングを構築していきます。このように投資とリターンの仕組みをブラッシュアップしていくことで、まさに「人財」という資産を増やしていくこと、それがこれからの人材開発には必要です」
不確実性が高まる時代にも、持続的な成長を目指すのなら、「福利厚生」ではなく「人財投資」を。そして“枝・葉”ではなく、“根っこ”からの人材開発に乗り出す必要があるのだ。
イベント開催のお知らせ
時代の変化に新しい価値を生む 〜人と組織の可能性を引き出す「人間力」の再定義
日時:2025年6月9日(月)14:00~17:00
場所:東京国際フォーラムD6・D7ホール
(※オンラインでも同時開催 14:00〜15:20)
主催:フランクリン・コヴィー・ジャパン / 協力:Forbes Japan
さとう・わたる◎1988年にモトローラ入社以来、一貫して外資系企業の人事業務に従事。モルガンスタンレー、日本ケイデンス、マイクロソフト、SAPで人事マネジメントを歴任。2006年にフランクリン・コヴィー・ジャパン副社長就任。現在はフェロー/コンサルタントとして人材開発を支援。