不正行為も不正対策もどちらも巨大なビジネスであり、その両面で人工知能(AI)の存在が成長を後押ししている。Visaによれば、昨年11月のサイバーマンデーに観測された詐欺未遂は前年比85%増、ホリデーショッピング・シーズンの最初の週末では200%増に達したが、これらの急増にはAIが大きく関与しているという。
「試行回数が多いという点がカギで、大半は阻止されているのです」と語るのは、大手信用調査会社TransUnion(トランスユニオン)のグローバル不正対策責任者スティーブ・インである(同社は2024年の収益44億ドル[約6200億円]のうち7%を詐欺防止ソフトウェア販売で得ている)。TransUnionによる推定では、2024年前半における全デジタルトランザクションの5.2%に詐欺の疑いがあるとしてブロックされたが、そのほとんどは成功に至らなかったという。
それでも、実際に被害が成立するケースも増え続けている。Juniper Research(ジュニパー・リサーチ)の推定によると、世界のEコマースの詐欺被害額は2024年に440億ドル(約6兆2000億円)に達し、2029年には1070億ドル(約15兆円)まで増大する見込みだ。年平均成長率は19.5%とされる。Juniperのフィンテック市場調査担当バイスプレジデント、ニック・メイナードは「これは絶え間ない軍拡競争です」と表現する。
詐欺師側はAIを使って、攻撃の高度化や多様化を図っている。具体的には、ディープフェイクを用いて他人になりすます、大量のアクセスでシステムの脆弱性を探る、ボットを駆使してウェブサイトから情報を取得する、あるいは巧妙に書かれたメールを大量に生成して機密情報を引き出すなど、多岐にわたる。
防御側も同様に、AIへの依存度が高い。Visaの最高情報セキュリティ責任者スブラ・クマラスワミーによると、同社は現在115種類のサイバーセキュリティツールを使い、300以上のリソースから情報を収集・分析している。行動分析プラットフォームや脅威インテリジェンス(※1)の融合プラットフォームなどは自社で構築しつつ、マイクロソフト、Thales(タレス)、IBM、Zscaler(ゼットスケーラー)、Cloudflare(クラウドフレア)、Checkpoint(チェックポイント)、Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)などのツールも併用している。
企業が数多くの不正対策ツールを同時に導入し、日々生まれる新手口に対抗せねばならない状況は、フィンテック系スタートアップにとって大きなビジネスチャンスになっている。Forbesの「2025年フィンテック50」に選出された企業のうち5社ーーAlloy(アロイ)、DataVisor(データバイザー)、Persona(ペルソナ)、SentiLink(センティリンク)、Zip(ジップ)ーーは、いずれも金融詐欺の防止を支援しており、それぞれ得意分野を持つ。
たとえばDataVisorは「教師なし学習(※2)」によって、一見、無関係に見える事象の相関を洗い出し、まだ発見されていない詐欺集団や攻撃手口を特定している。SentiLinkは合成ID詐欺(実在の社会保障番号と架空の名前を組み合わせる詐欺)への対策で知られていたが、最近では「なりすましID詐欺」という新手口を検知するツールを開発した。「なりすましID詐欺」は、一時ビザで入国した後に帰国した人々の実在ID情報を詐欺師が悪用するという新手である。合成IDやその他の偽IDは、クレジットカードの取得、自動車ローンや個人ローンの契約、詐欺目的の銀行口座開設などに用いられる。
※1…サイバーセキュリティに関する脅威情報を収集、分析、共有するプロセスやそこから得られる知見
※2…学習データに正解を与えない状態で学習させる機械学習の一種


