ビジネス

2025.04.20 14:15

合理性の外側にある「仲間意識」が会社に新たな展開を生み出していく:企業の遺伝子 第3回

「Tohokuライフサイエンス・インパクトファンド」の共同記者会見。左から「アイカムス・ラボ」片野圭二会長、「アルプスアルパイン」相原正巳CTO、「FVC Tohoku」小川淳社長

なるほど。では、このようなことは考えられるかと、僕のほうから次のようなある筋書きをぶつけてみた。

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「アルプスアルパインのなかに社内ベンチャーをつくって、それをTOLICに置くのです。そのアルプス・ベンチャーはTOLICとの連携のなかで、技術を開発し、アルプス内では困難であっただろう事業化を実現する。さらにベンチャーを通じてTOLICのネットワークやノウハウを吸収して、それをアルプスに還流させる」

相原の答えは次のようなものだった。

「あり得ます。いま、当社にはフェムテック(女性特有の健康にかかわる問題や課題を、ITや機能材料などを導入して解決するサービスやビジネス)に取り組みたいという人材もいる。ひょっとしたらTOLICのネットワークを得たほうが事業化の可能性が高くなるのではとも考えているところです」

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これは、僕の言葉に直せば、TOLICという外部に出て変異したアルプス電気の遺伝子を、今度はアルプスに取り込んでアルプス自体が変わっていこうという目論見である。

アルプス電気のもう1つの遺伝子を確認して、この連載を終わりたい。盛岡工場の閉鎖が決まったとき、社員の多くが盛岡に残ることを決断した。彼らのなかには地元、つまり生きる場所が非常に重要な位置を占めていた。

ほとんどの製造業は地方に工場を持つ。そしてその土地にはかならず取引先ができる。さらには従業員が勤務の後に立ち寄る飲食店などもでき、ある種のコミュニティが工場の周辺に出現する。

最後にアルプスの泉英男社長に、土地と企業との関係についてどう考えているのかを尋ねてみた。

「アルプスアルパイン」の泉英男社長
「アルプスアルパイン」の泉英男社長

「もちろん、我々の事業は地域の協力なしには成り立ちません。その傾向はここ10年でますます強くなっています。昨日はたまたま入社式でしたが、新入社員の多くは東北出身、ないし東北にある学校の卒業者でした。私自身、この会社を志望したのは東北で働けるということが一番の動機でありました。

また我々製造業は自社工場ですべてを完結するわけにはいきません。特に昔は輸送コストの問題で、どうしても東北のなかでモノづくりを完結させる必要があった。そこで、工場の周辺に協力会社(工場)を起業していただき〈東北16ネット〉と我々が呼ぶネットワークを形成したのです。

現在は中国に生産拠点を移す企業が多いのですが、地域とともに歩むという我々の基本姿勢は変わっていません。それゆえにコロナ禍でもサプライチェーンが途切れるということはほとんどありませんでした。地域との共生はとても重要です。地域なしに我々はありえず、我々は地域に依存し育ててもらっているようなものです」

かくして「アルプス電気」盛岡工場の「遺伝子」は受け継がれていった
かくして「アルプス電気」盛岡工場の「遺伝子」は受け継がれていった

泉社長のこの答えは、アルプス退職・ベンチャー起業組の行動もまた、「その土地とともに仕事をする」というアルプス電気のもう1つの遺伝子に促されてのものだった、という解釈を可能にするものである。(了)

文=榎本憲男

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