アジア各国政府が米国債で被るかもしれない損失は、リーマン・ショックですらかすむほどの世界的危機に比べればまだマシかもしれない。現に日本の政府関係者は、保有する米国債を関税に対する報復手段として使うつもりはないと言っている。
だが、もし中国がその道を選べば、日本の財務省・日銀当局者はきわめて厳しい決断とトレードオフに直面することになるだろう。とくに、石破茂首相がチームトランプとの2国間貿易交渉の準備を進めているだけになおさらだ。
こうしたリスクはパウエルの仕事もますます難しくする。彼がトランプを喜ばせるために利下げに踏み切れば、インフレ率は跳ね上がり、ドルの信認も損なわれかねない。インフレリスクはすでにトランプ関税のせいで高まっている。
FRBがインフレを制御できなくなれば、米国債の需要は大幅に落ち込むおそれがある。トランプはFRBの理事会に圧力をかけられるようにFRBのマンデート(使命)自体を変更することも目論んでいるとされるが、これも同じ結果を招きかねない。
中国が米国債を遠ざけるかもしれないという懸念に陰謀論は不要だ。米国の放漫な財政政策がトランプによるカオスと衝突するほど、米国の最後のトリプルA(最上位)格付けは危うくなる。
それを与えているムーディーズ・レーティングスの沈黙はかえって不気味だ。すでに米国の信用格付けを最上位から1段階下に引き下げているS&P500グローバルとフィッチ・レーティングについても、同じことが言える。
トランプが米国市場に大混乱を引き起こすなかで、中国は強さ、安定、そして資本主義の柱のように見える立場を享受している。これは、トランプの自滅的な貿易戦争が、中国の経済覇権への野望を再び偉大なものにしているもうひとつの例だ。


