政策の不安定さに加え、米国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)にも疑問符が付いている。チームトランプが一段の減税を実現しようとしたり、内国歳入庁(IRS)の弱体化を進めたりする一方で、米国の政府債務は37兆ドル(約525兆円)に迫っている。
また、トランプの関税政策の影響で米国のインフレ率が急激に上昇するおそれもある。これは、トランプが米連邦準備制度理事会(FRB)に対して戦闘モードに入っている理由だ。トランプはジェローム・パウエル議長に利下げをさせたい。しかしパウエルは、利下げするにはインフレ率が高すぎるとの認識だ。
互いに矛盾し、ころころ変わるトランプの政策に、投資家もたいへん気をもんでいる。中国に対する関税ひとつをとっても、たった数週間で10%から145%に引き上げられた。さらに高くなるのか、それとも下がるのか。誰にもわからない。
先月、採用や賃上げ、投資、あるいは新製品や新戦略でのリスクテイクに不安を感じていた企業経営者は、いまはそのどれに関してもますます消極的になっているだろう。あるいは、保有する米国債について心配していたアジアの中銀当局者は、それを積み増したいという気持ちがどんどん萎えているだろう。
では、実際に大量売却すればどうなるか。日本が1兆1000億ドル(約156兆円)近くにのぼる米国債を削減する気配を見せれば、世界の信用市場に壊滅的な影響を及ぼすおそれがある。中国が7600億ドル(約107兆円)の米国債を大量に売る場合も同様だ。
市場では先週、日本の財務省・日銀、中国人民銀行、もしくはアジアのほかの国の金融当局が、トランプの無秩序な政策に対するエクスポージャーを減らしているのではないかという噂が駆け巡った。向こう数週間で最も興味をそそる金融データはおそらく、各国当局の外貨準備高に関するものだろう。
もちろん、話はそう単純ではない。日本や中国、韓国、台湾、インドなどの金融当局がドルを売っているというニュースが流れると、米国債の利回りが急騰しかねない。そうなれば、世界の金融システムはかつてないほど不安定になるおそれがある。市場が大混乱に陥るばかりか、その衝撃は米国の消費者にも広がり、支出を手控えさせることになるだろう。


