エンターテインメントこそ社会課題を解決する「鍵」│田中直基

2021年の東京パラリンピックでの選手入場時の演出「The Wind of Change(世界を変えるカラフルな風)」/ Getty Images

これを機に「クリエイティブ制作においても、ボーダーレスな日常が当たり前になる状況をつくろう」と意識するようになりました。開会式のようなエンタメコンテンツだけでなく、企業の広告制作だったとしても、誰かがちょっと救われたり笑顔になれたりするような、社会を変えるためのコンテンツをつくりたい。24年の日本の広告費は7兆6730円と過去最高を更新していますが、これを企業と社会の両方の課題に生かせないだろうか──私はその橋渡し役になりたいと考えています。

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そうして22年には、身体障害者とともに、その視点やクリエイティビティの力を借りて、誰でも表現ができるためのツールや環境をつくることを目的とした「ALL PLAYERS WELCOME」プロジェクトを立ち上げました。その第1弾として、カンヌライオンズのメインステージで、ALS患者のふたりのアーティストとともに視線入力によって音楽を演奏するライブパフォーマンスを行いました。

「金継ぎ」のようなソリューション

「エンターテインメントこそ社会課題を解決する鍵」という考え方は、欧米を中心に少しずつ広がっています。ではなぜ今クリエイターの力が必要なのか、それにはふたつの理由があります。

ひとつは「プレイフルソリューション(楽しい解決策)」だから。正しいことを言うだけでは、人は動かないし、世の中は変わらない。「楽しい!」「笑顔になっちゃう!」といった人の心を動かすようなソリューションのほうが、素直に受け入れられるんです。日本の「金継ぎ」はそのわかりやすい例です。壊れた食器をただくっつけるだけではなくて、金を使って継ぎ目を美しく装飾することで、より長く大切に使うことができます。クリエイティブの力で人の心が動き、新しい価値が生まれるのです。

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もうひとつは、新しい視点を見つけることができるから。多くの人に良いと思われていないものも、別の視点で見ると価値に気づくことがある。そういった発想の転換はクリエイターの得意分野です。また、障害のある方や人種、年齢、性別など多様な視点をチームに取り入れることも重要。ボーダーレスなチームで制作することで、白黒つけて解決しようとするのではなく細かいグラデーションを認めることができ、より豊かな社会が実現するのではないでしょうか。


田中直基◎言葉、デザイン、テクノロジーをニュートラルに使いこなし新しい表現や体験を開発する。主な仕事に、東京2020パラリンピック競技大会開会式、AIによるラベリングから逃れる「UNLABELED」、アンドロイドタレント「マツコロイド」など。


本記事が掲載されている2025 年4月24日発売の「Forbes JAPAN」6月号では、「多彩な新・起業家たち100人」にフォーカスした企画「NEXT 100」を特集。地球規模から社会、地域まで多様化する課題に対して、アントレプレナーシップをもち、「自分たちのあり方」と「新手法」で挑む起業家やリーダーたちを「NEXT 100」と定義し、100人選出した。独自のスタイルや美意識で新たな価値指標をつくりながら、多くの人を巻き込み社会的・経済的インパクトを出している人こそ、世界の希望になる。次の時代をつくる「新しいクレイジーな人たち」に注目だ。

文=田中友梨

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