自動化を超えて
ソフトAIが目指すのは、人間の判断に置き換わることではない。むしろ、人間と密接に協働できる点にこそ強みがあるとジュンディは指摘する。
「倫理的イノベーションとは、信頼を得られるシステムを構築することです。私たちは人間の判断を排除するのではなく、それを補強し、情報を提供するツールをつくっています」
この考え方は、AI倫理の専門家にも響く。スタンフォード大学の人間中心のAI研究所(HAI、Stanford Human-Centered AI Institute)を共同指揮するコンピュータ科学者のフェイフェイ・リーは、こう述べている。
「人工知能の未来は人間と機械の対立ではなく、人間と機械が共にある姿です。一緒に取り組めば、想像を超えたイノベーションと進歩を達成できます」
ビジネスへの影響
企業がAIを最大限に活用するためには、次のAIイノベーションの波が大規模かつ複雑なシステムだけから生まれるわけではないと認識する必要がある。柔軟に適応し、状況を解釈し、人間と協調できるAIこそ重要だ。
ジュンディによれば、ソフトAIはその手本になり得る。より直感的な意思決定や変化へのすばやい対応、不確実性を扱う能力に優れ、大規模モデルのような巨大な計算リソースやエネルギーを必要としないため、エッジコンピューティング(編集注:データをクラウドに送らず、エッジである端末やその近くのサーバーで処理を行うこと)のような現場への導入にも適しているという。
「組織はアジリティや学際的なコラボレーション、不確実性を前提とする文化を育てる必要があります」
すでに軽量でタスク特化型のモデルを活用するエッジAI(編集注:データをクラウドに送らず、AIを端末(エッジ)側で動かす技術や仕組み)は、目覚ましい成長を遂げている。リアルタイム分析や自動化、顧客体験向上への需要を背景に、エッジコンピューティングへの世界的投資額は2028年までに3780億ドル(約54兆円)に達すると予測されている。その多くは、すべての判断をクラウドに送信することなく、現場で文脈を理解できるシステムによって支えられる見通しだ。
未来は適応型へ
先を見通すと、ソフトAIの意義は単なる成果の改善にとどまらない。人間と機械の関係をより円滑にすることであり、すなわち機械が単に計算するだけでなく、速くて予測不能な現実のリズムに適応して人間と協働する世界を実現することにある。
ジュンディはこう展望する。
「今後5年ほどで、モデル自体のアーキテクチャだけでなく、AIが世界とどう結び付くかという点で飛躍があるはずです。軽量な知能やエッジコンピューティング、データだけでなく文脈やニュアンス、意図を理解するシステムを通じて進むでしょう」
結局のところ、ソフトAIは生成AIやエージェント型AIほどの派手さはないかもしれない。しかし、最も直感的で、かつ信頼に足るAIとなる可能性が高い。こうした変化の兆しをいち早く捉えられるかが、ビジネスリーダーに大きな違いをもたらすはずだ。


