絶滅危惧種について議論が紛糾
では、大阪・関西万博では、次世代に何を伝えていけばいいのか。今回の会場で供される食事の食材に関して、水産物の調達方針を見てみよう。
策定段階から、大会組織委員会の姿勢にはとても好感が持てた。東京オリパラで指摘されてきた調達方針の欠点を踏まえて、それを乗り越え、より良いものにしようと議論を重ねたのだ。
組織委員会は、当初、絶滅危惧種は当然、持続可能ではないとしていたのだが、ある時点から絶滅危惧種も調達可能だと定義づけてきた。どこからか修正が入ったのだろう。
大阪・関西万博ではサステナブルでインクルーシブな万博を目指し、パリ協定、大阪ブルーオーシャンビジョンなど複数の国際的な行動規範に基づいて「持続可能に配慮した調達方針」を制定している。これにより広く社会に持続可能性の概念が定着することを目的とし、環境、人権、労働などの多種にわたる分野で万博のサプライヤーに遵守を求めている。
ところがこの方針策定の過程で、食材として絶滅危惧種の扱いについて議論が紛糾した。大枠では生物多様性の保全に関して「持続可能な利用のための措置が講じられていない絶滅危惧種等の野生動植物に由来する原材料を使用してはならない」と明記されている。
しかし、詳細な水産物の項目では「絶滅危惧種については、基本的に使用しないことする。ただし、資源保存や再生産確保など持続可能な利用のための措置が講じられているもの、又は完全養殖によるものは使用可能とする」となった。
何が起こったか明らかにするため、当時、万博担当大臣を通して行政の担当者などに理由を訊いてみたところ「例えばうなぎはサステナブルだ」と言い切ったのだ。なぜそう言えるのかと問うと「頑張っている業者がいるからだ」と答えた。そこにはいっさいの科学的根拠はなかった。
ところが組織委員会は屈しなかった。調達方針自体を二段構えにしたのだ。水産物の調達方針の最後に、以下の「項目9」を付け加えた。
<生産者における持続可能性の向上に資する取組を一層促進する観点から、MEL、MSC、ASC の認証を受けた水産物を最大限調達することが推奨される。絶滅危惧種を一切使用しないことも推奨される。また、これらの取組を行うことを宣言したサプライヤーは、その取組内容及び調達状況を公表することとする>


