アート

2025.04.12 13:15

「AIの影」 — アートが炙り出すHow, What, Why

(「Hand Sketch, Pencil Drawing」 CREATIVE HUB UENO “es” 東京)

AI時代の人間の役割は「Why」を問うこと

AIが加速度的に進化する中、人間の役割はどこにあるのか? 窪田氏は「Why(なぜそれをやるのか)」こそが、人間の担うべき役割だと考えている。

advertisement

窪田:「今までは『どう解決するか(How)』が重視されてきましたが、解決策はどんどん陳腐化し、AIの方が優れた答えを出せる時代になってきています。これから重要になるのは、そもそも『なぜそれをやるのか』という問いを立てること、それこそが人間の役割となります」

AIの進化は凄まじい。ChatGPT-4.5の登場に続き、今年中にはGPT-5が発表されると予測されている。そして、エンジニアの試験などでもAIが人間を凌駕する時代が目前に迫っている。

窪田:「システムを要件通りに作る能力は、間違いなくAIの方が優れる時代になります。そのとき、人間がやるべきことは『なぜそれを作るのか』を考えること。今までビジネスの主流ではなかった問いや、価値を見出されなかったものが、むしろ新たな可能性として輝く時代になると思っています」

advertisement

AIは0次データを持たない——だからこそ、人間が果たすべき役割がある

AIの進化によって、多くの問いに対する答えは容易に手に入る時代になった。しかし、その情報は「1次データ」にすぎないと窪田氏は指摘する。

窪田:「AIは膨大なデータを処理できるようになりましたが、それでも扱えるのは1次データまでです。人間が体験し、感覚として持っている『0次データ』は、そもそも入力されていません」

その象徴的な例が、彼が関わる山形県西川町での出来事だ。西川町では冬の朝、宿の女将が朝3時に起き、坂を下りて、目視と皮膚感覚で雪の積もり具合を確認して、その日雪かきするかどうかの判断をする。この情報はデータベースに記録されることなく、人間の感覚でその場限りで判断に使われる。AIがいくら発展しても、こうした人間の経験値はデータとして蓄積されていない。

窪田:「AIが生成するものは、あくまで既存のデータをもとにした答えです。しかし、人間の中にはAIがまだ触れることすらできない膨大な0次データがある。この0次データとAIが融合することで、新しい価値が生まれるはずなのに、むしろ今のAI社会はそれを均質化し、1次データの世界に閉じ込めてしまう危険性を孕んでいるのを危惧しています」

AIの持つバイアス問題は、データベースの問題でもあり、そのデータベースを作る社会全体の問題でもある。では、この状況をどう変えていくのか?

窪田:「AIがもたらす社会が、すべての人にとって喜ばしいものになるのか、それともマイノリティがいなかったことにされる世界になるのか——今、私たちはその境界線にいると思います。だからこそ、少しでも良い方向へ向かう理想を描くことが重要だと思っています」

次ページ > 伝統芸能とAI——過去と未来の融合

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事