ビジネスとアート——視点を変える重要性
ビジネスの世界では、短期間での決断と行動が求められる。しかし、目の前の成果にとらわれることで、本来考えるべき長期的な影響を見落としてしまうこともある。では、ビジネスパーソンはどうすればその視点を持ち続けることができるのか?
窪田:「ビジネスは短いスパンでの成果を求められる世界です。ですが、全く異なる視点を持つことで、もっと豊かになれるのではないでしょうか。だからこそ、ビジネスパーソンこそアートや芸術の持つ力を知り、感じ、取り入れることが重要だと考えています。」
自身も、かつてはアートに縁がないと感じていた。しかし、表現活動を通じて、思考が広がり、学びのきっかけを得るようになったという。そして、AIが引き起こす社会変化について、過去の公害問題と照らし合わせながら、次のように語る。
窪田:「水俣病やイタイイタイ病などの公害は、誰も意図して起こしたわけではありません。豊かな未来を築こうとした結果、負の遺産を生み出してしまった。いまAIが社会にもたらしている変化も、同じような構造を持っているのではないでしょうか。ただ拡大し、速くすることだけが価値なのか——それを考えることが、今求められていると思います」
AIは、かつてないスピードと規模で社会を変革している。その進化の中で、私たちは何を見落としているのか。AI時代の水俣病やイタイイタイ病を生まないために、窪田氏の作品は、その問いを投げかける。
「週刊少年ジャンプ現象」で、未来を切り開く
現代は、不確実性が高まる一方で、AIの進化により『How(どのように実行するか)』の価値が下がっている——窪田氏は、こう指摘する。
窪田:「AIが進化したことで、何かをやりたいと思ったときに、その方法を調べれば、極めて精度の高い答えがすぐに得られるようになった。一方で、何をやるか、つまり『What』の価値は飛躍的に上がっています」
この変化を、彼は「週刊少年ジャンプ現象」と呼ぶ。少年漫画の主人公が「俺はこれをやる!」と旗を立てるように、現代のビジネスやクリエイティブの世界では「何をやるのか」を決めることの重要性が増しているのだ。
これまで、組織の中で旗を立てる役割を担うのは一部の人間に限られていた。しかし、AIが「How」を担うようになったことで、より多くの人が旗を立てることを求められる時代になっている。
窪田:「例えば、DeNAは組織の人員を削減する際に、クビにするのではなく、削減人材を新規事業へシフトさせる形で活用しています。こうした動きは、今後ますます増えるはずです。そうなると、今まで以上に自ら旗を立てる人が圧倒的に増えざるを得ない状況になるでしょう」
この変化は、ビジネスや組織の構造にも大きな影響を与えていると窪田氏は続ける、従来の「経営」「マーケティング」「デザイン」「アート」といったカテゴリーの境界が曖昧になり、すべてが融合しつつあり、融合できる人材が必要になるとのことだ。
窪田:「現在は、混迷を極めているように見えるけれど、それは新しいものが生まれつつある証拠でもあるとポジティブにも捉えられます」


