厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(以下、身体活動ガイド2023)」では、成人に対して「1日60分以上」、高齢者には「1日40分以上」の中強度以上の身体活動(3メッツ以上※)を推奨している。しかしその達成度合いは果たしてどの程度なのか。
この疑問に応えるべく、笹川スポーツ財団と明治安田厚生事業団が、計測機器を用いての調査を全国規模で実施。その結果、日常生活における身体活動の不足と長時間の座位行動という、現代人の「動かなさ」が可視化された。
※メッツ:「安静時を1としたときに、何倍のエネルギーを消費するか」を示す"活動強度"の単位。歩行は3メッツ、速歩は4.5メッツ、ランニングは10メッツ。週に3時間のランニングを行った場合、10メッツ×3時間=週30メッツ・時となる。
■調査概要
【調査対象】層化二段無作為抽出法を用いて全国47都道府県から抽出された200地点における満20歳以上80歳未満の男女5400人
【調査方法】郵送法:対象者には土・日曜日を含めた合計7日間にわたる活動量計の装着を依頼し、測定を行った。期間中に実施した運動・スポーツや生活習慣等に関しては質問票によって回答を得た。
【調査時期】2024年11月
【主な調査項目】
1) 活動量計による測定: 身体活動量(低強度・中高強度)、歩数、座位行動時間など
2) 質問票による調査: 運動・スポーツ実施状況、運動・スポーツ活動歴、健康認識、生活習慣、基本属性など
【回収状況】解析対象者数1106人(有効回収率20.5%)※1日10時間以上の装着日が4日以上
約半数が推奨運動量を満たせていない
ここで言う身体活動とは、「安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動作」を指し、運動やスポーツだけではなく、日常生活における労働・家事・移動なども含まれている。このことを踏まえた上で、調査結果を見てみよう。
年齢別では、20〜64歳の成人では目標達成率45.7%、65〜79歳の高齢者では57.1%で、意外にも高齢層のほうが活動的であることがわかる。なかでも65歳以上の女性の目標達成率は62.4%と高めだ。確かにウォーキングをしていると男性や若い層よりも高齢の女性たちをよく見かけるため、「高齢の女性は活発」というイメージはある。
図表1. 身体活動ガイド2023による推奨身体活動量(1日に行う3メッツ以上の身体活動時間)の達成率(%)
働き盛り世代こそ運動不足に陥っているという逆説的な結果は、通勤・デスクワーク中心のライフスタイルが影響している可能性がある。つまり、「働くこと」が「動かないこと」になっている構造が見えてきた。
歩かない・座りっぱなしが常態化
推奨歩数は、成人で1日約8000歩、高齢者で約6000歩とされているが、調査の結果、実際の歩数はすべての性別・年齢層においてこの水準を下回った。さらに、1日の座位時間は男性で平均9時間、女性で8時間を超えており、いわゆる“座りっぱなし”の状態が続いている。
図表2. 各行動の中央値
日常に埋め込む“動き”の工夫を
こうした結果から見えてくるのは、日本人の多くが日常の中で“無意識に座りすぎ”、かつ“意識的に動けていない”という現状だ。反対に言えば、特別な時間を設けずとも、日々の中で「あと10分の歩行」「階段を使う」「立って電話をかける」といった小さな行動を積み重ねるだけで、健康リスクは大きく下げられるということ。小さな活動を継続に続けるーーこの習慣こそが、活動量を上げるもっとも効果的な方法と言えるだろう。