光を当てるとその光を蓄えて、暗くなったときに放出する蓄光素材というものがある。昔の目覚まし時計の針や、縁日で売られていた暗闇で光る骸骨のオモチャなんかにも使われていた懐かしの光源だが、今は停電時に避難誘導路を示すなど災害対応用に活用されている。それを、もっと幅広く夜の街に活かそうという取り組みが鎌倉市で行われている。
昔は放射性物質を使った「夜光塗料」が広く使われていたが、現在の蓄光素材は当然のことながら放射性物質はおろか、人体や環境に負荷のかかるものはほとんど使われていない。それどころか明るさや発光時間も格段に増している。この取り組みに使用されているのは、「心にゆとりのある社会の実現」のためのコンテンツ開発などを行う企業ユーモラスが製品化した「ナイトコンシェルジュ」というもの。「最新の高輝度蓄光テクノロジーとデザインを融合したライティングメディア」ということだ。

同社は、この技術を使った滑り止め加工の路面デザインユニット「ナイトコンシェルジュ 2Dノンスリップ」20枚を、鎌倉市道路課と共同で鎌倉市立深沢小学校の周辺の通学路に配置した。通学路には歩道のないところもあり、暗闇でも子どもたちが安全に歩ける場所を示す。
ナイトコンシェルジュは電気を使わず、メンテナンスの必要もなく、半永久的に光り続ける。明るさは、発光開始から12時間後に3ミリカンデラ毎平方メートル以上を保つことを定めたJIS Z9097(津波避難誘導標識システム)規格の3倍近い8ミリカンデラマ毎平方メートルでクリアしている。5時間後でも24ミリカンデラ毎平方メートルという、消防法が定める「蓄光式避難口誘導標識」の20分後の基準値に相当する明るさだ。
いちばん明るく見えるのが、日が暮れてすぐの薄暮時間帯。ここは内閣府の2019年度版交通安全白書のなかの『薄暮時間帯の交通事故防止について』に示されたとおり、歩行者と自動車の死亡事故がもっとも多い時間帯でもあるため、子どもの通学路には好都合だ。20枚のプレートには1枚だけ四つ葉のクローバーがあるので、それを探す楽しみもある。
鎌倉市は、市民の反応を見ながら効果検証を進め、「安全で安心な通学路づくり」に活かしていくという。ユーモラスは、このプロジェクトの成功を踏まえて全国の小中学校や行政などとの協力を進め、より多くの地域への導入を目指すとしている。

ナイトコンシェルジュは、夜の街の明るいか暗いかの二択ではない、「暗闇を活かした空間演出」の可能性を見据え、「利用者の安全を維持しながらメッセージを発信するコミュニケーションツールとして蓄光を再定義」していくと語っている。