子供たちの未来を象徴する空間「ノモの国」
シンプルな幾何学構造をベースとするウーマンズパビリオンに対し、子供たちの未来を象徴する空間「ノモの国」では、一見システムが見えない自由な形状の構造形式を採用。未来が固まっていない、変容し続ける子供たちのイメージを有機的でゆらぎのある建築で表現した。
そもそも永山氏がコンペに参加したのは、 自身もα世代の子供を育てる母親であり、子供のための万博というパナソニックのコンセプトに共感したからだ。「万博推進担当参与の小川理子さんは1970年の万博を体験し、技術者の道を選ばれた。万博が子供の将来を決めるきっかけになるかもしれないという想いがテーマの根底にある」という。
コンペのプレゼン用に描いた最初のスケッチは、実際のパビリオンのデザインに限りなく近い。ただ、イメージに近づけるには技術的な壁をクリアしなければならず、チャレンジングな取り組みとなった。例えば、アーチ状のファサードを構成する一つひとつのバタフライモチーフは循環を表している。スチールパイプを3次元的に曲げたもので、加工には特殊な3Dフォーミング機械を使用。6種類の形状のパイプ1404個を組み合わせて独特のフォルムを作り上げた。
「この形状を見つけるのに要した時間は約3カ月。構造的に安定させるために試行錯誤し、構造解析はもちろん、風洞実験も行った」と永山氏。

バタフライモチーフに取り付ける薄い膜材は、通常建築では使わないオーガンジー素材。海風を受けて常にゆらめく様は見る人の感覚に訴えかける。また、オーガンジー膜に金属をスパッタリング加工し、表裏で異なる色を採用することで独特の色彩効果を生み出した。光の屈折を利用する構造発色をいつか取り入れたいと考えていた永山氏にとって、構造発色に近いこの試みも思い入れのある取り組みとなった。膜材の取り付け作業には、プロのクライマーである鳶職人数人を起用。ジャングルジムに登るように足場なしで作業を行うという驚きの高度な技によって実現したという。
持続可能性の観点から、パビリオン内の応接室や内装、照明、鉄骨にもアップサイクル建材を積極的に採用した。システムキッチンの製造で使用する人造大理石やテレビに使用するプリズムシート、洗濯機に使われるガラスなど工場から出る端材や廃材を活用し、デザイン性と環境配慮を両立させているのも見どころだ。
「屋外に設置した子供が遊べるハンモックにも、漁網をリサイクルしたナイロン100%素材の網を使っている。糸からオリジナルで作った世界唯一のもので、荷重の検証もしているのでかなり労力がかかった」


