脳は非常に強力な生殖器官である
性的な夢が強い快楽をもたらすことに疑いの余地はない。中国の大学生を対象とした調査では、次のような記述に対して肯定的な反応が大半を占めた。
・性的な夢に没頭したまま目が覚めなければいいと思うことがある。
・性的な夢を見るのは幸運だと思う。
・性的な夢から覚めたあと、ただの夢だったと知ってがっかりしたことがある。
・性的な夢から覚めたあと、想像のなかで続きを再現しようとしたことがある。
なぜ想像上の性行為がこれほど感情や本能に訴えるのだろうか?
結局のところ、性的な夢は孤立した空想上の出来事であり、私たちの意識的なコントロールの外にあるものだ。一見すると、それほど重要なものとも思えない。
だが実際には、とても重要な意味を持っている。性的な夢が私たちに大きな影響を及ぼすのは、脳が非常に強力な生殖器官だからである。
性的な夢が果たす役割は、私たちの感情や想像力、性欲を反映したり解放したりすることだけではない。実際の性行為と同じように、強い快楽をもたらすのだ。むしろ、いくつかの点では本物に勝るといえるだろう。ここでは性的な夢について、神経解剖学的な視点から考えてみよう。
まず、明確にしておきたいことがある――男性も女性も、夢を見ると生理的に興奮するのだ。睡眠中の生理的興奮は夢とは独立しており、身体は心が興奮していなくても反応を示す。幼児でさえ、理由は不明だが、睡眠中に勃起することがある。
性的な夢を見ているとき、脳は触れた/触れられたという信号を受け取っていない。夢は脳のなかだけで生じるものだ。しかし、それにもかかわらず、男性の三分の二以上と女性の三分の一以上が、夢を見ただけでオルガスムを経験したことがあるという。
夢を見ている心のうち、いったい何が性的な夢に影響力を与えているのだろうか? この問いに答えるには、問いそのものを立て直す必要がある。つまり、セックスという身体的な行為の最中、脳のなかでは何が起こっているのだろうか?
性的または官能的な営みは、私たちの神経系全体、すなわち中枢神経系(脳と脊髄からなる神経系)、末梢神経系(脊髄から伸びて身体中に広がる神経系)、自律神経系というすべての神経線維を使って行われる。自律神経系は私たちの意志とは関係なく〝自動的に〞機能し、肺や腹部、骨盤の制御をつかさどっている。
この神経系は交感神経と副交感神経に分かれており、交感神経は「戦うか逃げるか」反応を引き起こし、アドレナリンを放出して心拍数を増加させ、消化器官の機能を抑制する。一方、副交感神経は心拍数を下げ、内臓機能を正常な状態に戻す。つまり、休息・リラックス反応を起こして「戦うか逃げるか」反応と相そう殺さいしている。また、自律神経系は主に体幹、胃、胸部、骨盤に広がっている。性的な体験が直感的で身体の奥深く広がるように感じられるのはこのためかもしれない。
末梢神経、交感神経、副交感神経はすべて、性行為の際に脳に信号を送る。重要なのは、脳がそうした信号を解釈しているということだ。仮に、ある場所を触られたと考えてみよう。その後、同じ場所を同じ力で同じように触られた場合、脳はそれを取るに足らないものとして無視するか、おぞましいもの、あるいは愛撫のようなものと解釈する。触られる場所は問題ではない。身体のどこを触られても、その感触は性的なものになりうる。脳が性的な意味があると判断すれば、私たちは魅了され、呼吸が速まったり、心臓が高鳴ったり、興奮したりするだろう。しかし、性的な意味を感じなければ、そのような反応はまったく起こらない。
性行為の最中、脳のほぼ中心にある視床という卵型の部位は、末梢神経から脊髄を経由して送られてくる性的なシグナルを中継する。イマジネーション・ネットワークの最新部分であり、社会的認知や物語のつじつま合わせを担う内側前頭前皮質は、性的な刺激を分類し、性的な体験に脚色を加えて豊かな想像力とともにそれを解放する。また、本能的な恐怖を感じ取る扁桃体も、性行為を含むあらゆる体験に感情面での意味を付与する。


