経営・戦略

2025.04.22 13:30

言語化「できない」vs.「する」イノベーションを起こすのはどっち?

瀬戸欣哉(LIXIL CEO)・本郷和人(東京大学史料編纂所教授)

瀬戸:それはあると思いますよ。経営者というのは立てた推論を実行できる立場でもあるので、とりあえず思いつきをやってみて推論の正しさを検証するチャンスは社員よりも多い。結果として直観が成功する確率も高い。
 
ただここで大切なのは、こうしたインスピレーションを自分だけのものにするか、全員に共有するか、そうしないと組織は崩壊してしまいます。職人芸や勘、直観といった言語化しにくい「暗黙知」は一部の人だけがわかっている状態になると、仲間はずれが起きてしまう。これでは一体感のある活動はできなくなってしまうわけです。

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「文明」をつくることから経営は始まる

本郷:リクシルって社員は今、何人いらっしゃるんですか?

瀬戸:グループ全体でだいたい5万3000人ですね。

本郷:5つの会社が統合して今の姿になったんでしたっけ。

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瀬戸:2011年にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社がひとつになってリクシルとして発足しました。その後アメリカンスタンダード社、グローエ社を買収して現在の骨格ができあがった経緯があります。

本郷:会社としての一体感をつくるのは大変だったんじゃないですか。

瀬戸:それこそ「暗黙知」を組織の一部の知識にはしないようにしました。歴史学者を前に話しにくいけれど、そこはローマ時代の統治のあり方を参考にしたところがあるんです。一言で言うと「文化」と「文明」を分けて考えた。

それぞれの集団が長い間積み重ねてきたやり方や価値観といったものは「文化」。得てして文化は言語化されにくいものですよね。暗黙知なわけです。ただ、これをひとつの集団に統合されたからといって、単に否定してしまうと分断を招いてしまう。

一方で「文明」というものは人工的な共通点を探すことでかたちができてくる。ローマ文明の場合だと、後期に入ると宗教や人種にかかわらず、ラテン語が話せる、税金を納める、法律を守る──こうした後から人工的に定めた共通項を前提として全体を治めることにして、それぞれの文化については尊重したわけです。

LIXIL Behaviorsと呼んでいますが、リクシルの場合は「正しいことをする」「敬意を持って働く」「実験し、学ぶ」の3つを守りさえすれば、あとはそれぞれの価値観で仕事をしていいことにしました。これによって、一緒に仕事しようという文明の土台はつくれたと思っています。

信長の「ダイバーシティ」は成功したか

本郷:多様性を認める「ダイバーシティ経営」というものですよね。でも歴史を俯瞰してみると、日本という国はダイバーシティの逆をずっとやってきたわけですよ。
 
そのひとつは「世襲」。要するに重役の子は重役で、弓奉行の子は弓奉行で、草履取りの子は草履取り。これは今から1000年前の貴族社会だってそうだったし、戦国時代だって基本的には世襲の世界。ところが織田信長が人材抜擢を積極的にやって成功した。その代表的な人事が明智光秀の重用ですが、結果的に裏切られて本能寺の変という最期を迎えることになる。

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構成=谷村友也 写真=平岩 亨

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