「悪」が「善」に生まれかわる展開
「エミリア・ペレス」は、先の第97回アカデミー賞では最多の12部門で13ノミネートを果たして、当初は「大本命」とも目されていた。しかし結局、前出の歌うシーンでも評価を高めたゾーイ・サルダナが助演女優賞、劇中で歌われた「エル・マル」が歌曲賞と2部門の受賞に止(とど)まった。
アカデミー賞ではミュージカル的部分が評価されたかたちだが、もちろん犯罪をテーマとしたクライムストーリーとしても面白く、そのぶんアクションやサスペンスも盛り込まれている。ほかにもエミリアと家族をめぐるヒューマンドラマもあり、この作品を味わい深いものとしている。
妻と2人の子どもと同居を始めたエミリアが、自らは夫であり父でもあることを隠しながら家族と接していくシーンは、不思議な緊張感が醸し出される箇所でもある。このエミリアの奇妙な立ち位置は、その後の彼女の「悪」が「善」に生まれかわる展開にも影響してくる。
従姉妹という触れ込みだったが、子どもたちに対して過剰な愛情を注ぐエミリアに対して訝しさを隠しきれなかった妻のジェシーだが、そもそも彼女がスイスからメキシコに帰国した理由は、かつての恋人に会うためでもあったのだ。
錯綜する人間関係のなかで、エミリアはリタと協同して「ラ・ルセシタ(小さな光)」という団体を立ち上げ、犯罪に巻き込まれ行方不明者となった人間を捜索するという慈善活動をスタートさせる。それはかつて自分も関わっていた犯罪行為に対しての贖罪意識からでもあった。
そしてエミリアは、活動を通して知り合った女性、夫のDVに苦しんでいたエピファニア(アドリアーナ・パス)と恋におちるものの、妻のジェシーの思わぬ行動から新たに手に入れた人生に軋みが生じ始めるのだった。
トランスジェンダーとしての生き方から始まって、蔓延る麻薬カルテルの抗争、家族のあるべき姿、そして犯罪による行方不明者の問題と、「エミリア・ペレス」にはさまざまな考えさせられる要素も詰まっている。
「ミュージカル映画」と表現されるケースも少なくはないが、「エミリア・ペレス」はその言葉だけで片づけることは難しく、やはり、破天荒な物語となっている。
連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>


