大人のための非日常体験サービスと日本の魅力を世界へ届けるインバウンド向けサービスを展開するJ-CAT。2019年の設立後、日本の魅力を再構築しテクノロジーの力で情報発信、予約システムの提供などを手掛けてきた。25年春には約11億円の大型資金調達を受け、さらなる事業拡大に向けて動き出そうとしている。
J -CATが提供するのは、これまでにない感動体験。「日本には、まだ見ぬ魅力があふれている」と話すCEO 飯倉 竜(以下、飯倉)が、起業に至った思い、そして今後の観光業の未来について語った。
起業の原点は書道家である母の姿
私は学生時代から「いつか自分の力で社会を変えたい」「何か新しい仕組みをつくりたい」という思いを抱いていました。そもそも私が起業に興味をもったのは、書道家である母の苦労を間近で見てきたから、と言えます。
母は作品制作や書道教室を運営するかたわら、ホームページ作成などもひとりでこなし、毎日夜遅くまで働いていました。苦労の甲斐あり、今では書道教室は生徒数100人を超えるまでになりましたが、母のようにすべてをひとりで行うには限界があります。
本来、作品を生み出すアーティストやクリエイターは、創作活動に打ち込める環境が必要です。しかし実際は、創作活動以外のことに時間や負担が生じている方々がたくさんいます。こうした環境を変えることができれば、日本の良き文化はもっと発展できるのではないか。そんな思いがJ-CATを起業するに至った原点であり、現在取り組んでいる日本の文化とテクノロジーを組み合わせた新たなビジネスモデルの構築へとつながっていきました。
起業まもなくコロナ禍に
J-CATを設立後、茶道や華道、坐禅などの体験イベントを提供する事業をスタートしました。ですが、コロナ禍に見舞われ、事業を中止せざるを得ない状況に。以後も先が見えない状況が続きましたが、「文化を発信していく」「観光業界を変える」という気持ちは変わることなく、コロナの終息後を見据えた新たな事業の企画を練ることに時間を費やすことにしました。
書道家である母の話をはじめ、さまざまな人に話を伺うと、日本の文化に携わる人の多くがITの活用に課題を抱えていることがわかりました。と同時に、国内外に日本の観光資源や文化、芸術がもつ魅力を「本当に価値があるもの」として、適切な価値を保ちながら提供していきたいという思いが強まり、当時のミッションとして「ITテクノロジーで文化を繋ぐ」を策定しました。
また、これまでの経験から、外国人の方々が日本の伝統文化に強い関心を持っていることを実感し、観光資源を体験コンテンツとして提供し、ユーザーと事業者、どちらにとっても便利で使いやすい予約サイトを構築。そこには、コロナ禍で大きな損失を負った事業者の方々を支援したいという強い思いもありました。
まずは、伝統工芸やものづくり工房、飲食業、寺社仏閣など日本の魅力を体感できる事業者を探し、直接交渉に出向きました。実績がない状態で飛び込んだ世界だったので不安もありましたが、事業者の方々がとても好意的に話を聞いてくださったことを、今でも鮮明に覚えています。
同時に20年8月からWEBサイト構築にも着手。コロナの状況を慎重に見極め、21年6月に大人のための非日常体験を提供する「Otonami(オトナミ)」を、22年10月にインバウンド・外国人旅行者向けの「Wabunka(ワブンカ)」をリリースすることができました。
今振り返ってみると、厳しい情勢の中でのスタートは決して簡単ではありませんでしたが、その環境だからこそ、柔軟に事業を進めることができたと感じています。私は元来、楽観主義者ですが、どんな困難にもポジティブに立ち向かうことで、ビジネスチャンスをつかむことができるのだと実感しました。
「Otonami」「Wabunka」が大切にしていること

「Otonami」と「Wabunka」に共通するコンセプトは「感動体験」です。人は行ったことのない場所や見たことのないものに触れたとき、心が震え、記憶として脳裏に深く刻まれます。こうした感動を多くの方々に体感していただきたいです。
例えば、世界遺産である寺院を巡る拝観ツアー。これは、単に境内を巡るものではなく、通常公開されることのない非公開エリアを和尚様が直接案内するという、ほかでは決して体験できないツアーを実施しています。伝統工芸の工房を見学するツアーでは、普段目にすることができない作業工程を公開。つくり手の巧みな技法や、伝統を継承する職人の思いにも触れていただく機会を設けることは、表層的な知識や経験ではなく、より深い階層で日本の魅力を知ってもらうことにつながると考えています。
加えて、「Otonami」は少人数制、「Wabunka」は1回1組限定で提供していることも大きな特徴です。大人数が参加するツアーでは、説明してくださる方の話を聞き逃したり、細やかな作業などを見逃してしまうこともある。ですが、限られた人数であれば、事業者の方とより深い会話を楽しんだり、繊細な工程や技術を間近で見ることができます。
少人数制という体制は参加者だけのメリットではありません。
私たちがサービスを展開するうえで最も大事にしているのが「サプライヤー・ファースト」です。事業者の方々の過度な負担にならないよう人数を制限し、感度の高いお客様を集客することで体験の時間をより濃厚なものにできる。ほかにも、大人数の参加者を受け入れられず、体験プログラムとしての提供が難しかった事業者の方も、少人数であれば対応が可能となり収益を上げることができる。少人数制であることは、こうしたさまざまなメリットを生み出しています。
テクノロジーの活用で、多くの人に感動体験を届けたい
「Otonami」と「Wabunka」の予約サイトでは、それぞれの体験を記事にしてユーザーに届けています。事業者の思いを丁寧に伝えることでユーザーが共感してくれるという好循環が生まれるよう、常に意識しています。例えば、文章のテンポやリズム、世界観が伝わる写真、美しいWEBデザインなどを用いて、サプライヤーの魅力が存分に伝わるようディテールにもこだわっています。
通常のECサイトでは商品の購入アイコンは一番目立つ先頭にあるのが通例ですが、我々の予約サイトでは最下部に配置しています。理由は、記事を最後まで読んでいただき、サプライヤーの思いに共感していただきたいから。
「Otonami」と「Wabunka」のリリースをきっかけに、J-CATは「テクノロジーとクリエイティビティで、魅力あふれる日本の姿を世界へ」という新たな企業理念を掲げました。私とエンジニアの2人ではじめた会社が、現在では社員数約40人、業務委託・アルバイトスタッフを含めると総勢約100人規模(2025年3月現在)の組織に成長しました。クリエイティビティの面では、我々の世界観に共鳴してくれるライターやフォトグラファー、通訳ガイドを含め、スタッフが一体となって上質なコンテンツを企画立案しています。
そしてテクノロジーの面では、WEBデザインやプロダクトマネージメントなどを担当するシステムエンジニアが約20人在籍し、システム構築はすべて内製化しています。WEBサイトは目に見える部分が注目されがちですが、実は見えない部分がすごく重要です。弊社のサイトでは、購入代金の自動決済システム、予約完了後の速やかな手配・準備など、テクニカルなプログラムをしっかりと構築できていることも大きな強みだと考えています。
事業拡大に向けた大きな一歩へ
過去、J-CATは数億円後半規模(金額非公開)の資金調達を実施し、サービス向上や組織強化に投資を行ってきました。そして25年春に約11億円の追加調達を受け、サーバーシステムをバージョンアップさせ、上場準備やスケールに耐えられるオペレーションの仕組みの構築、サプライヤーに対する営業活動およびコンテンツ制作の強化、海外旅行代理店との提携やリピーター獲得といったマーケティングの拡大を行っていきたいと考えています。
また新たな試みとして、25年4月に初の実店舗となる次世代型ライフスタイルラウンジ「Otonami Lounge Tokyo」を大丸東京店(東京駅)にオープンしました。本ラウンジでは「ライフスタイルを豊かにする、大人のための学び」をコンセプトに、気軽に参加できる習い事型の体験、日本文化にまつわる展示や商品の販売などを行います。
「感動」には飲食や旅行、物販などさまざまなかたちがあります。今後も創業時の想いである事業者支援を軸とし、国内外のユーザーに、日本の魅力を感動体験という形で届けていきたいと考えています。

J-CAT
https://j-cat.co.jp/
いいくら・りゅう◎J-CAT 代表取締役 CEO/Founder。大学卒業後、2012年住友商事入社。17年からシリコンバレーに駐在し、ベンチャー投資業務、CVCファンドの立ち上げなどに従事。19年11月に同社を退職し、J-CATを起業。
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