しかし、消費者調査に基づいた製品開発の助言を自動車メーカーに行うCARLABのノーブルは「サイバートラックの壮絶な失敗は、共感の欠如によるものだ」と指摘する。「この車両は、荷台の構成からキャビンの仕様、性能なといったあらゆる面で、ピックアップトラックに求められる顧客のニーズを満たしていない」
サイバートラックの特異な外観には2つの要因があったと開発プロセスに詳しい関係者は語る。1つはマスクのSF風デザインへの執着。そしてもう1つは「ボディを塗装しない」という初期の決定だ。
テスラは、この車両に「塗装をしない」という決定によって、2億ドル(約290億円)のコストがかかる新たな塗装工場を設置する必要がなかったという。また、それらの工場が排出する有害物質や廃水に対しての環境保護庁(EPA)からの監視を回避することができた。
呪われた「ステンレス製ボディ」
マスクは最終的に、もう1つの歴史的失敗作として知られる1980年代の「デロリアン」と同様のステンレス鋼の外装を選んだ。しかし、彼はこの素材が抱える課題を十分に理解していなかった可能性があると関係者は指摘する。ステンレス鋼は曲げにくく、元の形に戻ろうとする性質がある。これがサイバートラックのボディパネルに問題が生じた一因となっている。
「テスラは製造工程のトレードオフを見誤ったと思う」とマーサーは語る。「マスクは、2億ドルの無駄な塗装工場のコストを削減できたと考えたが、結局そのコストをステンレス鋼の処理に費やしたんだ」
サイバートラックの開発にテスラがかけた費用は、オースティンでの金型の製造コストを含めて約9億ドル(約1300億円)に上ると彼は推定している。しかも、モデル3やモデルYとは異なり、サイバートラックの開発や生産のコストは、他のモデルと一切共有できないと見られている。
「この車両のために開発されたテクノロジーが、他のテスラ車に転用される見込みがあるか? その答えはノーだ」とマーサーは語る。「サイバートラックのために投資した製造施設が他の製品にも対応できるか? それもノーだ。塗装されていないステンレス鋼の車向けの設備に汎用性はない」
サイバートラックには、最初から不吉な兆候があった。それは、マスクが2019年11月に、熱狂的なテスラファンの前でこの車両を最初にお披露目した際のことだ。「本当にタフなトラックを見せてやろう。ハンマーでぶん殴ってもヘコまないんだ」と、デモのステージに立ったマスクは得意気に語った。
しかし、マスクの指示で社員が鉄球を「防弾仕様」とされる窓ガラスにぶつけたところ、窓ガラスにはヒビが入り「なんてこった!」とマスクは叫んだ。「この問題は今後、解決する」と、彼はバツが悪そうに話した。


