カルチャー

2025.05.28 14:15

女が贈るネクタイは「くびわ」、男はそれで騎士になる━━天才・庵野監督の首にも

Getty Images

庵野監督を現世に繋ぎ止める「首輪」

「首輪」というのは、中世の恋人たちが贈ったスカーフさながらに、ではないですが「命と俗世とをゆるやかに繋ぎ止めるもの」という感覚です。

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ここで唐突な引用をいたしますが、『三島由紀夫 石原慎太郎 全対話』(中公文庫)の中で、三島由紀夫が以下のように言っています。

「戦争だって全部想像力の世界だよ。(中略)その想像力の構成は芸術とちっとも変わらない。今つまり一番想像力を持ってる者が想像力の世界に生きてて…(後略)」

監督が制作に打ち込んでいるスタジオは、まさに常世と現世のあわい・戦場のようで、監督は、モヨコ先生の首輪によってかろうじて現世に繋ぎ止められているように見えたのです。

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創作(芸術)に取り組む人や、戦に出かける中世の騎士は、連れ添う人からの「首輪・スカーフ」があるからこそ、自分の命を軽んじることなく戦いにのぞめることがあるように思います。

しかしながら、「戦場」に赴く戦士に「首輪・スカーフ」をつけて送り出す女性という風景は、送り出す役割、送られる役割が固定されていてアナクロニズムな気もします。武内先生も、安野先生も、女性戦士の主人公を描いているように、自ら前線に立って戦う方。とすると、現代においては「首輪・スカーフ」は互いに代わりばんこで付け合い、騎士と姫を代わりばんこでするのが、豊かで楽しい男女のあり方なのかもしれません。

そう考えながらよくよく目を凝らせば、武内先生の「騎士」の絵の首元にも、スカーフが巻かれているのが見えるようです。

私の首にも誰か、スカーフを(首輪を)つけて————。

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矢島光(やじま・ひかる)◎漫画家。1988年東京都生まれ。 慶應大学環境情報学部卒業後、サイバーエージェントに入社し、フロントエンジニアとして「アメーバピグ」の運営に携わる。2015年に退職、専業漫画家に。 著書に漫画『彼女のいる彼氏』『バトンの星』など。現在はメディアの編集部で経理アシスタントとしてアルバイトをしながら執筆に取り組む。

文=矢島光 編集=石井節子

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