北米

2025.04.07 13:30

トランプは西欧の敵:伊藤隆敏「格物致知」

Chip Somodevilla / Shutterstock.com

しかし、今回の会談決裂の背景にあるのは、大統領選挙運動中から始まったトランプ大統領による、完全にロシア寄りの立場への転換だ。大統領に就任すると、ロシア寄り姿勢はロシアべったりの姿勢へと変化した。停戦条件として、ロシアが主張するように、ウクライナのNATO加盟をはじめから否定。2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻という歴史的事実も否定、この戦争を始めたのはウクライナだと主張し始めた。さらにゼレンスキー大統領を(選挙を実施しない)独裁者と呼んだ(第二次世界大戦中、イギリスが選挙を実施しなかったことを知らないのだろうか?)。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻から3周年(2月24日)には、「ロシアによるウクライナ侵攻」という表現の入った国連総会決議は欧州諸国、日本を含む93カ国の賛成で可決されたが、この決議案にアメリカは、ロシア、北朝鮮、ベラルーシなどとともに反対票を投じている。このようにアメリカと西欧が激しく対立するのは極めて異例だ。

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フィナンシャル・タイムズ紙のマーティン・ウルフが、2月25日の紙面で「アメリカ合衆国は今や西側諸国の敵だ」というタイトルで、アメリカの反ウクライナ、親ロシアの立場を激しく批判している。彼が指摘する点はすべて正鵠を得ている。日本はこれから民主主義国として西欧と歩調を合わせるのか、独裁国家になりつつあるアメリカにいつまでも安全保障を頼るのか(そして見返りを求められることになる)、難しい選択を迫られる。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd
Edition、共著)。24年春、瑞宝中綬章を受章。

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伊藤隆敏の格物致知

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