武田:それぞれの授業で、様々なジレンマを抱えていたということですね。地球環境とクリエーションの共存は難しいテーマで、ファッションや食、建築というそれぞれの分野にとどまらず、連携していくことが求められているとも授業を通して実感できました。
野田:それぞれ分野では、すでに突き詰め切っていると言えるかもしれません。世の中にイノベーションを起こそうとするならば、これからは今回のように様々なジャンルで互いの強みや弱み、課題を掛け合わせていくことで、次世代につなげられるイノベーションが生まれるのではないかと感じています。
私も最近はレストランから一歩出て、ほかの専門分野の方々と話をするようにしています。科学者や考古学者、長年SDGsに取り組んでいる方々の話や課題を聞くと、新たな発想が浮かぶこともあります。より大人数で取り組めれば、イノベーションを起こせるのではないかという可能性も感じますね。

武田:課題の話を聞いて、今回クマさんとともに授業を担当したサーキュラーエコノミー研究家の安居(昭博)さんが、オランダのダッチ・デザイン・ウィークで「できないこと」の研究が行われていたと口にしていたことを思い出しました。環境にいいことばかりでなく、自分たちにできないこともしっかりと表に出すことで、仲間が見つかる可能性があると。
山縣:年長者が「それは今までにないやり方で、この業界ではできないからダメだ」と言ってはいけないとも思わされますね。ときには一緒に悩むことも大事なはずです。そういう意味でも、今回のように異なる分野が混ざる場や10代の参加者が考える場は非常に重要だと感じます。
クマ:建築における地球環境とクリエーションの共存を考えると、建築は、すでに新たに建てる時代ではなくなってきていると感じます。一方で建築というのは楽しいことでもあり、そこへの欲求があったから建築文化が発展してきたのも事実です。
現代はその欲望を満たすだけで建物を建てていいのかという課題があり、個人的には「建築と呼ぶ範囲を広げたい」と考えるようになっています。今回の授業のモニュメントも、はじめは「そもそも大きなシンボルがなくて建築と呼べるのか」という疑問がありましたが、「これも建築だ」と解釈を広げてみる。
その範囲を広げ、ファッションでも食でも「これも建築です」と言えるようにするには、どうしたらいいのかと。そのためには多くの要素を総合して分野を越境することが必要であり、多くの分野の知識を集めて作ることはやはり建築に近いとも改めて思います。今後は定義を広げていくことこそが、地球環境とクリエーションが共存できる術なのかもしれません。

武田:なるほど。確かに、違う分野に乗り込んでいくのでなく、「これも食です」「これもファッションです」「これも建築です」と取り込んでいくことも越境になりますね。


