政治

2025.03.27 09:30

トランプの「EU産ワインに200%関税」で米ワイン産業は崩壊する

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

商談の席で世界最高峰の白ワイン、ピュリニー・モンラッシェを振舞って相手に気持ちよくなってもらう──こんな手はもう米国では使えなくなるかもしれない。仕事帰りにコート・デュ・ローヌのお値打ちボトルを1本買って晩酌を楽しむのも、おいそれとできなくなるだろう。

欧州連合(EU)から米国に輸入されるワインや蒸留酒すべてに200%の関税を課すというドナルド・トランプ大統領の提案は、愛国心による貿易関係のリセットと位置付けられている。すなわち、米国産ワインを後押しするために競合他社を締め出す方策だ。

「米国のワイン・シャンパン事業にとってすばらしいことだ」とトランプはソーシャルメディアに投稿した。シャンパンという呼称はフランスのシャンパーニュ地方で生産されるスパークリングワインにしか許されていないにもかかわらずだ。それはともかく、トランプの主張は、危険な欠陥のある前提条件に基づいている。米国産ワインを世界市場から隔離すれば、米国のワイン産業がなんだかんだ強化されるだろう、というものだ。

そうはならない。生産者にとっても、飲食店にとっても、小売業者にとっても。もちろん、消費者にとってもだ。

なぜか? この関税が米国のワイン生産者に利益をもたらすという仮定から検証してみよう。表向きには、典型的な保護主義だ。欧州産ワインを手の届かない代物にしてしまえば、買い手は米国産ワインに切り替えるだろう。しかし、米ワイン業界は世界から隔絶した状態で活動しているわけではない。輸入業者、流通業者、レストランのワインディレクターは、持続可能なビジネスを行うために多様なボトルのポートフォリオを組んでいる。一夜にしてEU産ワインをすべて排除してしまったら、国内生産者のための余地が増えるどころか、安定性が失われるだけだ。

たとえばイリノイ州の中規模流通業者が、自然派ワインショップ向けにボジョレー、カリフォルニア州のピノ、そしてオレゴン州の小さなワイン農園が生産しているペットナット(ナチュラルワイン)を仕入れているとしよう。米国のワイン流通網の大部分はこうした中規模流通業者が占めており、幅広い商品を取り扱うことで経営が成り立っている。仕入れるワインの半分に突然200%の関税が課されれば、彼らの利益率は崩壊する。その流通業者が廃業に追い込まれれば、米国の生産者にとっても重要な取引先が失われることになる。

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翻訳・編集=荻原藤緒

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