経済・社会

2025.04.23 08:15

森、里、海をつなぎ、新しい共同体をつくる。林篤志が仕掛ける「地域経営」とは

paramita 共同代表 林篤志(撮影:高重乃輔)

気候変動時代における地域経営とは

初日の夜、九鬼集落の漁港で開催されたディナーセッションにて。2日目の午後は、参加者自身のアクション会議として、未来の教育、森林活用/木材価値の向上、藻場の再生&養殖の可能性、新たな里山里海の関わり、関係人口創出/企業研修、well-beingという6つのテーマが置かれ、グループごとに「小さくても確実なアクション」を練り、発表した
初日の夜、九鬼集落の漁港で開催されたディナーセッションにて。2日目の午後は、参加者自身のアクション会議として、未来の教育、森林活用/木材価値の向上、藻場の再生&養殖の可能性、新たな里山里海の関わり、関係人口創出/企業研修、well-beingという6つのテーマが置かれ、グループごとに「小さくても確実なアクション」を練り、発表した

グローバル資本主義が加速する中で、森や海といった自然資源の管理コストは、経済合理性の観点から、次第に"負債"とみなされるようになった。その結果、開発の過程で森林が皆伐されたり、人工林が適切に管理されずに放置されるなど、各地で極端な事例も目につくようになった。

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グローバル資本主義を乗り越える一つの手段として、尾鷲で始まっているような、地域の環境再生をもとにした地域経営のかたちがあるのではないだろうか。

「僕たちが向き合うべき問題は、大きく2つあります。ひとつは人口減少で、もうひとつは気候変動です。消滅可能性自治体という言葉が知られていますが、このままいくと自治体そのものがうまく機能しなくなるという危機感を強くもっています。尾鷲市で始まっている取り組みは、それらを一気に解決へと向かわせる道筋となる可能性がある」(林)

(撮影:高重乃輔)
(撮影:高重乃輔)

林は、愛知県の濃尾平野に広がる田んぼや畑に囲まれた環境で育ち、幼少期は、野山を駆け回って遊んだ。そうした豊かな環境がなくなっていく現実に、心を痛めていた。高知県の土佐山で、自然とともに暮らし生き方を見直す場をつくるためのスクール「土佐山アカデミー」を立ち上げ、運営するなかで、今はもう持続可能性という言葉では足りないところまできていると気づいた。

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「自分が子どもの頃に当たり前にいた生き物が、もういない。それを悲観している場合ではなく、どうやってこの先、生き延びていくかを考えなければいけません。自分たちの子どもや孫が、この地球で生きられる場所を残したい。それを守る仕組みを今、つくらないと」(林)

市民活動だけでなく、地域や社会のため、あるいは環境再生などの取り組みをする人たちがしっかりと報われる新しい仕組み。林は10年以上、このアイデアをあたため、時代が追いつくのを待ち続けていたという。

「それは善い行いだからみんなで支えよう、というやり方もいいのですが、公共の価値に正当な経済がつながるモデルをつくる必要がある。数年前まで、この構想は、誰にも受け入れられなかったんです。でも今は、やらなければもう終わりだという認識が広がりつつある。既存の仕組みが崩れかけている今だからこそ、チャンスだと思っています」(林)


林篤志◎paramita 共同代表/Crypto Village 共同代表/Next Commons Lab ファウンダー
自治体、企業、起業家など多様なセクターと協働し、新たな社会システムの構築を目指して活動。ポスト資本主義社会を具現化するための共同体OS「Local Coop」、デジタルアートの保有を通じて気候変動問題の解決に取り組む「SINRA」、過疎地におけるデジタル関係人口を創出する「Nishikigoi NFT」など、多様なプロジェクトを展開中。

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