地域の森から、カーボンクレジットを創出する

2日目は、尾鷲市内のせぎやまホールに会場を移し、前日の振り返りや基調講演、各協賛企業によるトークセッション、尾鷲市長による「尾鷲ネイチャーポジティブ宣言」が行われた。
三重県尾鷲市は、2022年より「ゼロカーボンシティ」宣言を掲げ、企業や団体との連携を通じて2050年温室効果ガス排出ゼロに向けた取り組みを積極的に推進する。
林が共同代表を務めるparamita社が提供するブロックチェーン技術を活用した「SINRA」プロジェクトに尾鷲市が提携パートナーとなり、前ページで紹介した「みんなの森」など、森林保全を目的としたJクレジットの創出に寄与する「Regenerative NFT(※1)」を販売し、その収益を森の所有者や地域に還元する。この仕組みにより、これまでのような企業間だけでなく、個人や小さな組織単位でも参加が可能となった。

※1 Regenerative NFTとは 自然資源が保有する多元的な価値を象徴したNFT(Non-Fungible Token)。具体的には、温室効果ガスの吸収量を表すカーボンクレジットの事前保有権や、自然資源が保有する生物多様性から得られる便益等のトレーサビリティを保持している。
企業との連携では、2024年12月、LINEヤフーが「みんなの森」約90ヘクタールの二酸化炭素(CO2)吸収量500トンを「Jクレジット」として10年間売買する契約を結んだ。契約では、LINEヤフーのCO2などの直接的な排出にあたる「スコープ1」をクレジットで相殺。尾鷲市は売却益を「みんなの森」の整備や、九木浦の磯焼けを起こすガンガゼ(ウニ)の除去といった藻場再生の原資とする計画だ。
そしてLINEヤフーに続き、協賛企業は9社に増え、ディップ、サカイ引越センター、日本エヌ・ユー・エス、パナソニック ホールディングス、八千代エンジニヤリング、三菱重工業もそれぞれ、尾鷲市とゼロカーボンシティ宣⾔の推進に関する協定を締結した。
「尾鷲市が、いわば22世紀のリジェネラティブシティへ向かうための具体的なアクションは3つある」と林は話す。ひとつめが森林整備や藻場再生といった「自然環境整備」、ふたつめが再エネや再エネ促進といった「環境負荷低減」、みっつめが2027年春に開校予定の気候変動を生き延びるための学校「Network School(教育)」である。
これらの取り組みを進めるにあたり、林はまず、地域の持続可能性を高める新しい自治の仕組み「ローカルコープ(Local Coop)」を尾鷲市に実装した。
「ローカルコープ」とは、自治体や住民、企業と連携し、地域電力の供給や買い物支援、ごみの資源化など、地域に必要な公共サービスを共助で実現する地方自治体のサブシステム(第二の自治体)で、林はこの「ローカルコープ」を日本各地で実装することを目指す。

「既存の大きなシステムの中に飲み込まれずに、自分たち自身が暮らしの最適解をつくっていく必要があると考えています。その既存のシステムを超えた先に、ボーダレスにいろんな人が助け合う世界を、国境を超えてつくりたいんです」(林)