週に5回以上ブドウジュースを飲んでいる男性は、勃起障害(ED)になる可能性が低いとする研究結果が、加齢男性医学の専門誌The Aging Maleに発表された。とはいえ、ブドウジュースを箱買いして愛飲する生活に飛びつく前に、どのように研究が行われたのか、研究結果をどう受け止めるべきなのかを確認しておこう。
研究手法
この研究は、蓄積された研究医療データの分析から関連性を明らかにしようと試みたものだ。中国・天津医科大学総医院(総合病院)の研究チームは、全米健康栄養調査(NHANES)の2003~04年のデータを分析した。対象のデータセットには、たまたま男性の勃起機能と各種飲料の摂取頻度に関する質問が含まれていた。EDに関する質問に回答しなかった2695人と、飲料の摂取に関する質問に完全には回答しなかった743人を除外し、20歳以上の男性1532人(平均年齢47.2歳)を研究サンプルとした。サンプル中510人がEDと診断されていた。
単変量と多変量のロジスティック回帰分析を用いてEDと飲料摂取との関連性を調べたところ、週に5回以上ブドウジュースを飲んでいた人は、EDと診断された確率が79%低かった。傾向スコアマッチング(PSM)と呼ばれる手法を適用して背景因子の影響を調整すると、確率は88%に増加した。
ブドウジュースには抗酸化物質が含まれている
なぜブドウジュースを飲むとEDのリスクが下がる可能性があるのだろうか。研究チームが提示した可能性のひとつは、ブドウジュースにはポリフェノールをはじめとする抗酸化物質が含まれている点だ。勃起は血液が動脈を通って陰茎海綿体と呼ばれるスポンジ状の組織に充満することで起こる。したがって、動脈硬化を引き起こす糖尿病などの病気はEDの原因になり得る。ブドウジュースに含まれる抗酸化物質には、動脈硬化を予防する効果が期待されている。たとえば、赤ブドウ品種に含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールは、海綿体細胞の保護に役立つ可能性がマウスを使った研究で示唆されている。
だが、もちろんマウス実験の結果をそのまま人間に当てはめることはできない。マウスとヒトには似ているところもあるかもしれないが、違う点がとにかく多い。
研究が示した関連性は必ずしも因果関係を意味しない
そもそも関連性や相関性というのは、必ずしも因果関係があることを意味するものではない。2つの事柄が互いに関連しているからといって、一方の事柄が他方の事柄を引き起こしたとは限らないのだ。たとえ俳優ニコラス・ケイジ主演の映画が公開された年にプールで死亡事故が増加したとしても、ケイジが映画出演するたびに人々が救命胴衣をつけて泳ぐほうがいいという話にはならないのと同じことだ。
ブドウジュースを常飲していた人たちの中にEDと診断された人が少なかったのは単なる偶然かもしれず、背景にはさまざまな理由が考えられる。天津医科大の研究では、ストレスレベルなど、調査対象者の生活条件はよくわかっていない。ストレスや不安だけでなく、慢性疾患や医薬品、手術など、EDの原因となり得る要因はいろいろある。しかも、EDは決して珍しい症状でもない。
とりあえず、このブドウジュースの研究から何を「搾り取る」かには注意が必要だ。ブドウジュースの消費量との相関関係が見つかったことは興味深いが、わかったのは可能性だけである。切り口の異なるさまざまな研究を行ってみないことには、実際に効果があるかどうかは今のところまだ何とも言えない。