エストニア国防省は2023年12月、ウクライナ軍は2024年にロシア軍人10万人を死亡させるか重傷を負わせれば、ロシア・ウクライナ戦争の潮目を変えられると分析していた。
実際にはウクライナ軍は2024年、その2倍の20万人程度の死者・重傷者をロシア軍に出させたとみられる。
2025年に入っても、ロシア軍は高い損失ペースが続いている。ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官が3月16日に報告したところによれば、ロシア軍は2025年の最初の3カ月半ですでに10万人超の人員を損失した(編集注:シルスキーの以前の報告によればロシア軍の2024年の死傷者は42万7000人。いずれの報告でも「損失」には軽傷者なども含まれる可能性がある)。
しかし、ウクライナ軍がロシア軍に与えた多大な人的損失が、エストニア国防省が予測していたような、ロシア軍の戦時即応態勢の下方スパイラルを引き起こすほど多大なのかを判断するには、まだ時期尚早だ。ウクライナ軍自体も多大な人的損失を被っているため、損失をめぐる計算は変わってくる可能性もある。
エストニア国防省が報告書で示した勝利理論では、ウクライナは十分な訓練を受けたロシア軍人をロシアの軍事訓練システムが補充できる以上のペースで殺傷していくことで、ロシア軍全体の緩やかな崩壊を引き起こし、最終的にロシアを敗北させることが可能だとされていた。
「ウクライナ戦域のロシア軍部隊の消耗を継続・増大させ、新たに動員される人員が早すぎる段階で同戦域に投入されるように強いることで、ロシアの訓練システムを圧迫し、破綻をきたすように仕向けることができる」(同省)
エストニアの分析によれば、ロシアは半年ごとに兵員およそ13万人を、作戦を開始できるようなまとまった部隊や編成として訓練できる能力をもつ。だが同じ期間にロシア軍に少なくとも5万人の死者・重傷者を出させれば、訓練システムは圧迫されて支障をきたし、その数がおよそ4万人に制約される。そうなれば「ロシアは戦力の質が一貫して低下し、攻勢のための戦闘力の再生が妨げられる」ようになると考えられる。