ドナルド・トランプ米大統領は、カナダを併合するという考えを繰り返し打ち出している。だが、北米大陸の統合を掲げて軽率に突っ走る前に、トランプや併合賛成派は考え直したほうがいい。もたらされる結果は重大で、合衆国における憲法上のバランスに壊滅的な打撃を与えかねない。
はっきり警告しよう。米国がカナダに乗っ取られる可能性がある。これは誇張ではない。数理政治学に基づく分析結果だ。
北の隣国カナダには10の州と3つの準州がある。カナダ人は控えめに見えるかもしれないが、交渉の席で彼らを過小評価すれば痛い目をみる。仮に北米統合の運びとなったとして、カナダは決して丸ごと「51番目の州」になることを受け入れはしないだろう。各州・準州の地位を維持することを主張するはずだ。合衆国憲法では、各州に2人ずつ連邦上院議員の議席が付与される。つまり、米国がカナダを併合すれば、カナダは即座に26人の上院議員を獲得することになる。これは米議会上院で採決の行方を左右する派閥を構成するのに十分な人数である。
これだけでも十分問題だが、カナダの広大な地理を考慮に入れると、シナリオはさらに悪化する。カナダ側の交渉担当者たちは抜け目なく、米国史における前例を持ち出して、州の分割を図るに違いない。ノースダコタ州とサウスダコタ州は、1889年にダコタ準州が分割されて誕生した。メイン州は1820年にマサチューセッツ州から切り離され、ウェストバージニア州は南北戦争中にバージニア州から分離した。これらの確立されたパターンに従えば、カナダは合理的に州の数を2倍に増やし、それに伴って2倍の人数の上院議員を獲得できるのだ。
その結果、何が起こるだろうか。新たに52人の上院議員が誕生し、下院にも相当数の議員が加わるだろう。そして、米国の領土拡大として始まった動きが、経済界で「逆さ合併」と呼ばれる状態へと変容する。これは、買収された企業の関係者が、買収した企業の運営を全面的に掌握するものだ。北米大陸全土を支配化に置くという米国の野心が、皮肉にも、連邦議会におけるカナダの実効支配を招くというわけだ。