経済・社会

2025.03.24 16:15

「共働き子育てしやすい街」で全国1位 神戸市はなぜ躍進したのか

産後ケア施設の「杉原ケアハウス」

昨年からは、子供が生まれると毎月おむつやミルクなどの育児用品を配る「こべっこウェルカム定期便」も始めた。

こべっこウェルカム定期便
こべっこウェルカム定期便

この「定期便」では単にモノを届けるだけではなく、子育ての経験者が配達員を務めることで、配達時に何か気になることはないか聞いて、赤ちゃんの具合や生活の様子などを尋ねる。配達員は必要があれば区役所の子育て担当につなぐ見守りの役割も担っている。

最初は配達員も不慣れだったが、「夜まとまって寝てくれない」といったよく聞かれる質問と答え方を配達員間で共有することで、経験値もアップしてきた。いまでは配達員の訪問を楽しみにしている親たちも多いという。前出の長尾も次のように言う。

「0歳の赤ちゃんがいると家の外に行く機会がありません。1日中家から出ないこともあれば、外出しても数時間ほど。誰とも会話しなくなると気がめいりがちですが、配達員と話をすることで気が晴れる効果もあると思います」

神戸市は「時間対効果」を意識

このような支援策を検討するときに、神戸市が意識しているのが「時間対効果」だ。

例えば、神戸市立の全ての保育所で登降園の時刻が記録されるアプリを導入。民間の保育所でもほぼ全てで導入している。このアプリでは、保育所からの情報だけでなく、育児をしている家族間で食事や排便などの情報をリレーのように共有できる。自らの子育ての経験も踏まえて長尾はアプリの効果について次のように語る。

認定こども園(光愛児園)でのICT化
認定こども園(光愛児園)でのICT化

「私の場合だと、自宅に帰ってから子供が寝るまでの2時間30分、朝だとわずか1時間が子供との時間。夫と分担していますが、ご飯、お風呂、寝かしつけと盛りだくさんで戦場のようです。日々成長する子供と遊ぶ時間もお互いに大事にしたいので、このアプリに助けられています」

一方で現在、国レベルで「高校授業料の無償化」が議論されているが、東京都と大阪府ではすでに公立や私立を問わず全ての高校で授業料を実質ゼロにする方針で、2024年度から順次実施されている。

そこで神戸市は、「高校授業料の無償化」を実施する大阪府への人口流出を懸念した。さらに高校生の通学範囲が広い神戸では交通費負担も大きい。これらを踏まえ、通学定期代の無料化に踏み切った。この無料化はまた、バラエティに富んだ進学先の選択を可能にし、地域の交通機関の維持にもつながっている。

無料化ではあるが、このように単に経済的な負担軽減に留まらない、明確な別の意図が込められているところが神戸市の施策の特徴だ。

神戸市の子育て支援には、もう1つ大きな特徴がある。それは市役所だけで実現できない事業が大多数を占めていることだ。保育所、児童館、産後ケア施設などの運営は、これに関わる民間事業者の厚みにも支えられている。街の実力といっても良いのかもしれない。この点は、バラマキ的な無料化で勝負する自治体とは、一線を画していると言えよう。

確かに他の自治体の無料化と較べると「インパクトがないので伝わらない」という指摘もある。だが、今回の自治体ランキングで全国第1位になったのも、子育てしている人たちが求めているニーズに、神戸市のやり方が沿っていることの証しではないだろうか。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文・写真=多名部 重則

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